第三の国
決意3
源平がチラリと俺たちに目を向ける。いつもの柔和な印象とは異なる鋭い眼差しにぶつかった。
「あけびさんは会わせてやれと言いましたが、私は正直なところ反対です。あなた方に会えば、彼は無理をしてでも起き上がり、この部屋から出ていくでしょう。それはゴーダくんがいない今、親しい友人であるあなた達にこれ以上の不安を与えないためです。分かりますね!?」
俺たちは下を向いて小さく頷いた。確かにそうだろう。もしも俺たちの不安気な顔を見たら、きっとエメンタールは痛みを堪えて大部屋に戻る。這ってでも。
「それに……彼の傷を見てあなた達が騒がないとも限らないですから」
「そんなに酷いんですか!?」
はっきりと症状を言われないことに、気持ちが焦った。エメンタールが高砂派に連れていかれたのが昼頃、俺たちが探しに走った時にはもう日が落ちていた。おそらく、日暮れまでは痛めつけられていたんだろう。
燭台の灯りに照らされた源平は瞼を伏せて小さなため息をついた。
「……数時間に渡り複数の監視から集中的に暴行を受け、全身アザだらけです。骨折がないのだけは幸いでしたが、背中の鞭傷は非常に良くありませんね。何度も打たれたことで傷口は化膿し、中には肉がえぐれてしまっている傷もいくつかあります。気づくのがもう少し遅れていれば、最悪の場合、命はなかったでしょう」
耳は源平の言葉を追うのに、理解するにはしばらく時間がかかった。血の気が引いていく。頭がガンガン鳴って、足元がふらふらした。
扉の前に敷かれた絨毯の柄を見ながら源平の言う最悪の場合を考えると、その恐ろしさに視界が大きく泳いだ。
エメンタールを失っていたかもしれない。……ブリと同じように、永遠に。
呆然と立ち尽くしていると、指先に冷たい感触を受けてビクリと肩が揺れた。
ゆっくりと腕を伝って自分の手を見る。するとそこには、俺より小振りなパルの手が何かに耐えるようにギュッと俺の手を握りしめていた。
俺よりもさらに冷たいその手が、自分を責めて震えている。俺は力強くその手を握り返し、源平に向き直った。
「お願いします。エメンタールに会っても声はかけません。無事な姿を見られれば、俺は何でもします」
俺の言葉に、源平と椿は互いに顔を見合わせた。口の端を上げた椿が嘲るのような笑い声を立てる。
「ほぉ。奴隷のくせに条件提示とは、世の中を良く知ったガキだな」
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