[携帯モード] [URL送信]

第三の国
決意2


コンコン。

小さく鳴らした扉の奥から出てきたのは、あけびではなかった。


「あけびさんは!?」


椿の問いに現れた人物が答えた。


「執務に戻っています。熱があるのに、困ったもんです。まったく」


薄紫の滑らかな髪は絹のように美しい。いつからいるのだろうか、手にした燭台の蝋は半分以上が溶けていた。



「あ、あの……エメンタールは!?」


逸る気持ちが抑えきれずに口をついて出た。椿からはでしゃばるなという視線を送られたけど、俺は真っ直ぐに源平を見た。困ったように伏せられた睫毛。そして一瞬、彼は視線を部屋の奥へとやった。


俺はそれを見逃さなかった。


「一目でいいので、どうか会わせて下さい。エメンタールの無事な姿を見られれば、直ぐに帰ります。ご迷惑は……お掛けしませんから」

散々迷惑をかけた身の俺が言っても白々しい。それは自分でも十分に分かっていた。だけど、一向に部屋に入れない現状に怯むわけにはいかなかった。


せめて顔だけでも見られれば安心できるはずだ。


誰が!?そんなの決まってる。遮られた入口前から部屋の中に視線を送るパルがだ。


引き返すわけにはいかない。






[*前へ][次へ#]

12/50ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!