第三の国
決意2
コンコン。
小さく鳴らした扉の奥から出てきたのは、あけびではなかった。
「あけびさんは!?」
椿の問いに現れた人物が答えた。
「執務に戻っています。熱があるのに、困ったもんです。まったく」
薄紫の滑らかな髪は絹のように美しい。いつからいるのだろうか、手にした燭台の蝋は半分以上が溶けていた。
「あ、あの……エメンタールは!?」
逸る気持ちが抑えきれずに口をついて出た。椿からはでしゃばるなという視線を送られたけど、俺は真っ直ぐに源平を見た。困ったように伏せられた睫毛。そして一瞬、彼は視線を部屋の奥へとやった。
俺はそれを見逃さなかった。
「一目でいいので、どうか会わせて下さい。エメンタールの無事な姿を見られれば、直ぐに帰ります。ご迷惑は……お掛けしませんから」
散々迷惑をかけた身の俺が言っても白々しい。それは自分でも十分に分かっていた。だけど、一向に部屋に入れない現状に怯むわけにはいかなかった。
せめて顔だけでも見られれば安心できるはずだ。
誰が!?そんなの決まってる。遮られた入口前から部屋の中に視線を送るパルがだ。
引き返すわけにはいかない。
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