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第三の国
決意


歩くたびに受けた雨が足元に落ちた。殴られた左頬が鈍く痛んで、口の中に血の味が広がる。俺の前を行く椿さんからは痛い程の怒りが伝わり、後ろから聞こえる頼りない足音にパルの落胆の色が伺えた。


誰も何も話さない重苦しい空気が俺たち三人を包んでいた。


「拭け。その成りで棟に入られたら迷惑だ」


監視棟の折り扉の前で投げ寄越された布は一つで、俺とパルはそれを分け合って使った。雨でぬかるんだ土の上を歩き監視を埋葬したことで手足は泥にまみれ、二人分の汚れを拭った布はぐちゃぐちゃになってしまった。椿さんは、返していいものかと躊躇う俺の手から素早く布を取り上げると、近くにあった屑籠にそれを捨てた。



あけびの部屋に着く前に、俺たちもどこかに捨てられるんじゃないか……。


そう思わせるような瞬間だった。張り詰めた椿の背中から漂う雰囲気に体が縮こまっていく。





「あれ、椿さん。どうされたんですか!?そんな若い奴隷つれて……」


気の抜けるような声と共に、老緑の監視服が目に飛び込んで来た。


「あぁ!!さては今夜は二人相手にですか!?さすがは副長。ご精が出ますねぇ」


大きな勘違いをしている下世話な扉番に椿は鉄拳を食らわせた。


「ひ……ひどいじゃないですかぁ。違うなら違うって口で言って下さいよぉ!!いやね、今日は珍しくあけび様が奴隷と一緒だったんで、てっきり私は椿さんも同じものだと……」


「お前の目は節穴か!?その奴隷、どんな様子だった!?」

「へっ!?………ああ。そういえば、なんかぐったりしてましたね。いや、だからこそあれは一発やった後かと!!それに、あけび様を見ていたら『お前も交ざるか?』って艶やかな声で聞くんですよ?もう格好良くて!!俺もあんな男になりたいですっ!!」


「一生無理だな」


椿は辛辣な言葉を残して扉番から遠く離れた。背後からは『人でなし!!』と嘆く声がして、俺はお堅いリコッタの監視と自由奔放なエポワスの監視のあまりの違いにただ驚いて後に続いた。






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あきゅろす。
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