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第三の国
被害のあと7


「それじゃあ、どっかの省に!?」


俺の問いを源平はやんわりと否定した。


「いいえ。神童はその聡明さもさることながら、中身までもが規格外だった様です。彼は着任式で長々とした各高官方の挨拶に大あくびをかまし、終いには国主である御天主様に向かって『金銀、物欲にまみれた爺の戯言を長々と聞いている時間が惜しいです』と言ってのけたとか」


俺は開いた口が塞がらなかった。


そんなバカな子供がいるのか!?いや、ゴーダならやるかもしれない……でも。


「子供時代は彼も色々と苦労をしたようです。領土拡大のしわ寄せのせいで故郷の民は増えた税を払えず、そのせいで役人からは不当な扱いを受ける。ご自分がそんな時を過ごしてきたから、あなた方のことも放ってはおけないのでしょう。エポワスにいた時も彼の監視下で奴隷たちが反乱を起こすようなことはなく、治安も安定していましたしね」


塗り薬を終えると、俺は源平に支えられながら体を浮かせた。長い指が銀盆の上から包帯を取り出し、素早く背中から腹にかけて巻いていく。脇腹に出来た痣に手があたる。ぬめり気を帯びた薬が皮膚にぴったりと張りつく。カチャカチャと瓶の擦れる音と、少し青臭い塗り薬の匂いが寝室に広がっていく。






「エメンタール君。あなたは、特別です」


「……えっ!?」


不意に告げられた言葉の意味が分からなかった。


「私はあけびさんが誰かのために血相を変えている姿を初めて見ました」


「……でも本人は、特別じゃないって。お気に入りだって」


妙に情けない声が出た。どうしてこんなことを打ち明けているんだろう。まるで拗ねた子供のような自分の態度に、苛立ちが募った。ゆったりと流れるような源平の話し方に気が緩んでいるんだろうか。手当てを受けて気が弱ってるんだ。


背中が熱くてかゆい。


薄紫の目が慈しむように細く閉じる。


「全身ずぶ濡れであなたを抱きしめ、私の前に現れた彼は監視長の顔ではありませんでしたよ」




――あなたは特別です。



源平はもう一度そう繰り返して、俺に眠るようにと言った。








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