[携帯モード] [URL送信]

第三の国
被害のあと6


消毒の終わりを告げられた頃には、うめき声も出なかった。ただホッと息をついて、体をベッドに沈めて力を抜いた。そのまま眠ってしまいそうだった。雨がうるさく硝子を叩いて風が窓を揺らす。



「あけびさん……あんな風にしてましたけど、本当に心配していたんですよ」


「どうですかね。本人じゃないんで、俺にはよく分かりません」


「また君は。そんなこと言って……私はビックリしたんですよ。あの方は人間を平等に扱うでしょう!?もう十年近く側にいますけど、誰に対してもああなんですよ。我が強くて、口が悪い」


「……スケベも足しておいてもらえますか!?」


危うく雰囲気に流されそうになったさっきの出来事が頭を過って、俺はしかめっ面で提案した。源平がくつくつと笑う。


「監視や奴隷だけじゃなく、御天主様にだってあのままですよ」


天主……どうしてこの場でその名前が出てくるのか。大陸から離れたこんな僻地の監視長が、天主に逢う機会なんてそうそうないだろうに。


「あけびさんはエポワスに来る前は重陽の中央政府にいたんですよ」


うつ伏せになったまま返答をしない俺に源平はそっと教えてくれた。驚いて体をひねると、ねじれた傷口が悲鳴を上げた。


「ほらほら。大人しくして下さい。ちゃんと話してあげますから」


俺は促されるままにまたゆっくりとベッドに体を沈め、顔の跡がついた枕と額の間に両手を挟んだ。


「子供の頃は神童と呼ばれていたそうです。前代未聞のわずか12歳で国内最高峰の神試に及第して文官となり、中央政府は大変な騒ぎになったとか。着任前から各省がこぞってあけびさんを欲しがり、あわよくば自分の腹心に取り込まんと躍起になったんです」






[*前へ][次へ#]

9/50ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!