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第三の国
被害のあと3





「ああ、すみません。お邪魔でしたか」




何の前触れもなく寝室の扉が開いた。触れ合うかどうかのギリギリのところ。互いに横になったまま重なる寸前の俺たちを見た源平が、目元の三角黒子を歪めながら部屋に入ってきた。



「お前、いい性格してんな。ずっと外で聞き耳立ててたのか!?」


あけびが体を起こしながらため息を吐いた。源平は銀盆に乗った薬瓶の山をベッド脇の棚に置き、からかうように口元を歪めた。


「とんでもない。ただ急に話声が止んだので、私の患者に何かあったのではと思いまして。いやいやご無事で何よりです。さ、私に構わず続きをどうぞ!?」


「出来るか。どんな嫌がらせだ」


「何を今さら照れます!?ああ、私でしたらお構い無く。あなたの情事はもう見飽きてますから」


曇りのない輝くような笑顔が爽やかで……怖い。いつもより少し乱れた薄紫の髪が、白い医療服に垂れかかっていた。


続く二人のやり取りの間に俺も起き上がろうとしたけれど、背中に広がる痛みに小さなうめき声を出げてしまった。あけびの大きな手が俺をやんわりベッドに押し戻す。頭を枕に預けると、すかさず源平が『そのままで』と片手を胸の前に上げた。



「……ハァッ。髪が乱れるほどクソ忙しい時に手間かけさせて悪かったよ。源平、とりあえずコレ頼むぞ」


あけびが俺に目配せをしてコレ扱いをする。俺がムッとした視線を飛ばせば、布団の上から足をポンポンと叩かれた。


「――ええ。確かに。ああ、でもあなたも無理はなさらないで下さいよ。一応患者ですから。それに!?」


「なんだよ!?」


「一人の少年を助けるために大人げなく仕事を放棄して、大雨の中をあちこち駆け回ったら熱が出た……なんて格好悪い自分を椿たちに晒されたくなかったら、残した仕事はほどほどにして切り上げて下さいね。監視長!?」



あけびは口をへの字に曲げると、源平に手渡された外套を羽織り、脱力しながら部屋を後にした。





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