[携帯モード] [URL送信]

第三の国
被害のあと2


「寝室……ああ……」


そうだ。連れ出されたんだ。確か高砂派の監視が四人いて――。


俺は切れ切れに蘇る記憶を必死に繋ぎ合わせた。桶に頭を突っ込まれた息苦しさや体を打つ鞭の重さ、異様な興奮を見せていた監視たちの行動。足元に忍び来る虫の蠢き。次々に浮かんでは消えていくそれらの光景と共に、鬱するような烙印所の空気感がまだ体にまとわりついていた。


「体は大丈夫か!?」


考えこむなと云わんばかりに腰に回した手にグッと力を入れて、あけびが俺を伺った。


「……烙印所でぶっ倒れてた時よりはマシ」


あけびの変な優しさにどう対処したらいいのか分からなくて、ぶっきらぼうに言い放ってしまった。あけびは俺の態度を気にするでもなく小さく笑うと、空いた手で俺の頭を二・三度叩いてそのまま顔の輪郭に沿って頬を撫でた。


お互いの息がかかる距離で視線がぶつかり、表情が強ばる。黒い瞳がまっすぐに俺を見ると、鼓動がやけに早く鳴り出し、口の中が渇いた。


「……あ……あのさ」


瞬きも出来ない時間が嫌で俺は自分から目を逸らした。だけど俺の後頭部に回った手がそっとそれを制し、視線は再び前を向いた。目の前が暗くなる。あけびの前髪が額にかかり、目を合わせたままで形のいい唇が近づいてくる。







[*前へ][次へ#]

5/50ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!