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第三の国
白い手2


二週間……もうそんなになるのか。


見上げた通気孔からの景色は暗く、星のきらめきも月明かりも感じられない。



この牢獄でこれまで受けてきた仕打ちは正直堪えたかったが、それ以上に気掛かりなのは一切の情報を絶たれた外の様子だった。






俺が居なくなってから、みんなどうしてるんだ。宮殿の奴隷たちは……チェダー、エメンタール。みんな無事なのか。俺のせいで余計なとばっちりを喰ってないか。



時間が経てば経つほど不安は膨らむばかりだった。




――ザシュ、ザシュ。



俺は真っ黒な通気孔を見上げた。地面を踏みしめる足音がどんどん大きくなる。ちょうど真ん前で歩みを止め、辺りを警戒するようにその場にしばらく沈黙が続いた。




白い手が暗闇の中から音もなく伸ばされる。




まるで蜘蛛の糸のようだ。俺が掴めばぷつりと切れて、地獄へ堕とされるんじゃないだろうか。



監視は言った。俺が二週間も水だけで生きていられるのは、奴隷としての生活のお陰だと。



だけど本当はそうじゃない。俺が生き延びられたのは――この白い手の主がいたからだ。





握りこぶしほどの大きさのパンが、天井横から落ちてくる。



俺は躊躇いながらも鎖で繋がれた両手でそれを拾い上げ、口に含んだ。



この牢に入れられてから三日が過ぎた頃、この手は突然現れた。それから毎日毎日、同じ時間。監視たちが交代の頃を見計らって必ずやって来る。



一体、誰なんだ。



何度も垣間見ようとした姿は、夜空よりも重く暗い衣服で隠されていて分からなかった。持ってくるパンも、俺が食べていた奴隷用の固いものから、多分監視たちが食べているパン。時には果物だったりする。



最初は中々口をつけようとしなかった俺に


『食え』


当て布をしたようなくぐもった声が命令した。声を聞いたのはそれきり。一体こいつは何者なのか、そして何の目的があって捕えられている俺を生かそうとするのか。



蜘蛛の糸はまた静かに孔から引き抜かれると、小さな足音を立てて去っていった。









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