第三の国 雨天の再会9 「……何だよアイツ」 それはパルにとっても同じだったようで、軽い舌打ちと共に扉の外をキツく睨んでいた。 「鞭もろくに振るわず、下劣な奴隷どもに媚びる卑しい小僧めが!!あんな愚行を晒していては私の品位に差し障るわっ!!」 どこまでも人の神経を逆撫でする男の話し方には、憎しみのこもった敵意と蔑みがはっきりと表れていた。 「このまま終わらせはせんぞ!!あけび、奴隷ども。覚えておれ。私は必ず戻ってみせる…………くくくっ」 一歩、一歩。ゆっくりと足を進める音が大きくなって近づいてくる。俺は緊張に身を縮め、呼吸を止めた。 「グァッ!!」 男の悲鳴と共に扉の向こうで人の倒れる気配がした。 「「高砂様っっ!!」」 「……ウッ」 「お気を確かに!!やはり出歩かれるのは、まだ無理です……少なくともあと半月は安静にされていませんと」 「さ、私の肩に。お部屋に戻りましょう」 ―――ドクンッ。 ―――ドクンッ。 部屋の静寂とは裏腹に、心臓が鼓膜を破るほどに大きく鳴った。 頭の中は真っ白で、冷えきったはずの体だけが一瞬にしてカッと熱くなった。 息苦しい。 まるで呼吸の仕方を忘れたみたいだ。 この扉の向こうに ――高砂がいる。 そう思うだけで目線があちこちをさ迷った。 世界がぐるぐると回るような感覚に耐えられなくなった俺は、ヨロヨロとその場から後退り体の支えを求めた。 「チェダー!!うしろっ!!」 ――ドンッ!!!!! パルの注意が聞こえた時にはもう遅く、背に当たった鉄の棒が床に向かって倒れかかっていた。 ツッ――。しまった――!!! 反応の鈍った体で手を伸ばしたけれど、竹箱に入った金属の束は大音響を立ててその場に崩れ落ちた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |