第三の国
新たなる監視長2
「ウンザリだって背中が物語ってるぜ」
背後からのいきなりの指摘に驚いた。
(誰だ……!?)
聞き覚えのない声に俺は眉をしかめた。
(奴隷なら就労中、こんな風には話かけてこない……絶対にだ。となれば、相手は監視)
そう予想はついたものの、狩り意外の時間は大人しく息を潜めている俺にとって、こんな風に虚をつくような言葉を向けてくる監視には心当たりがなかった。
「どうした!?振り向くのが恥ずかしいのか!?」
その声に、俺の周りで作業をしていた奴隷たちが次々に後ろを振り返った。
「あぁ、悪い。お前らじゃないんだよ」
男は柔らかな口調で奴隷たちをたしなめた。その様子に、奴隷たちの口からは、がっかりしながらも好意的なため息が漏れた。
背中に強烈な圧迫を感じた。
男との距離はそこそこある筈なのに、俺は身がすくみそうになるのを懸命に堪えた。
こっちを向け。
直接口に出さずとも、圧倒的な威圧感でそう言われているのが解る。
対面しているわけでもないのに、嫌な汗が頬を伝った。
生まれて初めてリコッタの猛暑に感謝した。
これだけ暑くて動き回っていれば身体中が汗まみれだからだ。
俺はひとつ息を吐くと、ことさらゆっくりと体を反転させた。
動揺は見せない。
頭の中に、つい数日前に抱いた男から手に入れた情報が駆け抜けた。
『新しい監視長が来る』
そして、男と正面から対峙した俺の目に映ったのは、想像以上に若い男の姿だった。
(30代……いや、無精髭で老けて見えるけど、下手したら20代だ)
これまでは、高砂を始め監視長になるようなやつは皆40を超えた中年ばかりだったために、俺は目の前の男が本当に新たな監視長なのか中々確信が持てないでいた。
男は片膝を立てて大きめの石の上に座り、微笑みながらこちらを見ていた。
脇には大きな荷物が置いてある。少し離れた場所では、馬が静かに主の帰りを待っていた。
長身に黒髪。
男の監視服の胸元には紅梅の飾りをあしらわれており、服の上からでもわかるほど体はガッシリと鍛えられていた。
座りながら微笑む、その物腰は柔らかだが、視線は鳥類を思わせるほどに鋭い。
「やっとこっち向いた」
俺がジロジロと男を観察していると、あけびはそう言って、今度は目を細めて妖艶に笑った。
その表情に、ゴクリと喉が鳴った。
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