第三の国
奴隷たちの恋9
「それにしても、ゴーダやエメンタールが言ってた意味がやっと分かった」
水溜まりに足を取られないように忍び足で歩いていると、隣に並んだパルが額に流れる水滴を拭い、おもむろに語りかけた。
「ん!?何のこと!?」
激しい雨音で会話が漏れることはないが、それでも極力声は殺した。監視たちまではまだ少し距離がある。
「うん。チェダーは植物と虫にかけてはバカを通り越してるって……でもまさか、雑草にまで詳しいとは思わなかった」
パルは感心したように俺を見つめた。まとわりつく服が体に重く張りつき、行く手の邪魔をする。
そういえば昔、よく植物や昆虫を捕まえて独自の薬を作ってたっけ。ゴーダとエメンタールにも効き目を試す実験台になってもらったな。
もしかして――あの二人。まだ根に持ってたりするのかな。
「そりゃまあ、ゴーダに自作の塗り薬を押しつけて尻の皮膚がかぶれた……っていうか若干ただれたり、エメンタールが熱を出した時は俺が作った解熱薬で余計に熱を悪化させたりして医者に大目玉食らったことくらいはあるけどさ……まさかその位のことで」
ぶつぶつ言い出した俺の言葉をしっかり聞いていたパルが、笑いながら囁いた。
「ウシシッ!!エメンタールは一週間立ち上がることが出来なかったって言ってたよ。それ以外にも、ゴーダは腹痛起こせば厠から出られなくなる薬をもらったって。あとロックフォールは虫から採った変な液薬のせいで切り傷の膿みが進行したって笑ってた。しかもチェダーは毎回必ず、今度こそ大丈夫だからってキラキラ満面の笑顔で薬を渡してきたんだって」
「………ま………まあ、昔の話だよ。七つやそこらの子供の頃のね」
(あいつらぁぁ。文句ばっか言って!!)
「これ、大丈夫!?」
「こらこら。俺は調合には失敗しても、植物自体を間違えたことは一度もないよ!!それに十になる頃には一人の急病人も出さなくなってたし」
(確かにそれまでは……半生半死の人がゴロゴロいたけどね)
俺が笑いながら弁解すると、パルは曇天の雨模様の中で太陽のようにニカッと笑った。
「やっと笑った」
「へっ!?」
「チェダーはさ。笑ってる方が可愛いよ」
「可愛いって。でも俺……笑ってなかった!?」
「うん。仮面着けてるみたいだった。……ゴーダがいなくなってからは特に」
「…………そっか」
「笑っててよ、チェダー」
「……パ……ル!?」
「その方が、エメンタールは喜ぶから」
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