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第三の国
奴隷たちの恋5


「分かるだろ!?危険なんだ。俺はそんなところにパルを連れて行く気はないよ」


キッパリと、半ば突き放すように言った。キツイ言い方だったかもしれない。だけど、この子まで危ない目に遭わせるわけにはいかないんだ。


パルは賢い。そして人の気持ちをよく汲む子だ。こんな風に俺が釘を刺さなくても、頭では分かってる筈なんだ。だけど、俺と同じでまだ未成熟な気持ちが状況についていけないのだろう。どうしても感情が先走ってしまうんだ。


「嫌だ…イヤだ!!俺が悪いんだ。俺が悪いんだから、俺が―――!!」


俺にすがりついて食い下がるパルの頬に俺は勢い良く右手を振り下ろした。



肌のぶつかり合う乾いた音が通路に響く。食事を終えて大部屋へと真っ直ぐ向かう奴隷たちが、列を作って俺たちの横を通り抜ける。興味深い眼差しでこちらを伺う者もいれば、ケンカに体力を使うなんて馬鹿馬鹿しいと白い目で見てくる者もいる。



俺に平手打ちをされたパルは驚きに体を硬直させていた。叩かれた頬が赤く色づいている。



「邪魔だ。ここにいろ」


パルを打った右手が鈍く痺れていた。ゴーダとエメンタール以外を本気で叩いたのは初めてだ。俺は情けなく震える手を握りしめ、気づかれないようにその手をそっと後ろへと隠した。


(悪態をついてくれればいい。やり返せばいい……それで諦めてくれるなら!!)

ムキになるかと思ったけど、パルの反応は意外なほど静かなものだった。ただその顔にいつもの天真爛漫な笑顔はなく、代わりにどんよりと暗い通路でパルの目だけが険しく、そして鋭く光っていた。



「…………俺も行く」


「パルッ!!」


いい加減にしろと叱ろうとした所で、俺は息を飲んだ。気圧されるかと思った。俺を見上げたパルにいつもの幼さはなく、まるで戦場に向かう軍人のような顔つきだった。







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あきゅろす。
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