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第三の国
奴隷たちの恋3


「どうしたんだよパル。何かあったのか!?」


無理に言わせる気はなかった。ただ、寒さだけに震えているわけではないパルの怯え方が気になった。少しでもいいから力になってやりたい。


「こんなに体冷やして。一体どれだけ長い間、外にいたんだよ」


俺は冷えきったパルの手を取って自分の熱でそっと暖めてやった。本当なら湯気の立ったスープや温かいお茶を飲ませてやりたい。真新しいタオルで濡れた髪を拭かせてやりたい。昔なら当たり前に出来たことが、奴隷になってからはそれがまるで貴族のたしなみのように遠くに感じられた。



無力な自分に歯がゆさを覚えていると、握りしめた手の甲に雨とは違う熱を持った滴が落ちた。驚いてパルを見ると、その目からは途切れることなく大粒の涙が流れていた。


「ど、どうした!?もしかしてどこか痛いのか!?それなら源平さんに――」


彼は敵の医療班だけど、前に高砂の遊びでひどい火傷を負った奴隷たちの手当てをしてくれた。俺の時もそうだ。きっと頼めば診てくれる。


「背中!?胸!?それとも腹のあたり!?」


服で隠れている場所。そして特に鞭打ちをされやすい箇所を中心に尋ねた。だけどパルは頭を振って否定した。




「…み…な…い…だ」


蚊の鳴くような小さな声だった。それは強まる雨足と広間の騒音にかき消されてよく聞き取れなかった。



「ごめんパル。もう一回――つっ!!」


耳を傾けた俺に小さな体が突進した。その衝撃に息をつまらせていると、パルはすっぽりと俺の胸に収まって、背中にキツく腕を回してしがみついた。



「…見つからない…んだ」



今度は聞き逃さなかった。あまりに冷たいパルの体に俺は身を縮めたが、それでもひどく落胆する彼の声をちゃんと拾った。



「俺が…俺が悪いんだ!!労働中なの分かってて。それでも、カゼウスで何があったのか知りたくて。ロックフォールに頼んだんだけどダメだって……大部屋にも居させてもらえなくて。だから俺、気になって仕方なくて――――俺のせいだ!!俺のせいなんだ!!」


パルがどうして自分を責めているのか、そしてこんなにも取り乱しているのか、俺には全く検討がつかなかった。


「ごめっ…ごめんなさい」


ただ悲痛な声を上げて謝る姿はこれまで見たどの姿よりも幼く、か弱く俺の目に映った。


(今はゴーダもエメンタールもいないんだ。俺が支えになってやらないと)


使命感のような不思議な感情が俺を支配した。何を聞いても揺るがない。そう思った。ゆっくりと深呼吸をして、まずは自分の気持ちを落ち着かせる。それから張りついているパルの体をそっと離した。


「大丈夫だから。落ち着いて。何が見つからないんだ!?俺も一緒に探すから」







「エ…メンタ…ル」






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