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第三の国
奴隷たちの恋2


宮殿担当の奴隷たちは腹を空かせて目の前の食事を頬ばった。固いパンを細かくちぎりながら広間の顔ぶれをよく見れば、宮殿と中庭を担当している奴隷たちがいち早く飯にありつけているようだった。


(塔の奴隷が……少ない)


いつもはきっちりと時間どおりに上がってくるのに、あけびの監視下で超過労働なんて初めてだ。作業が滞っているのだろうか。そう思っていると少し遅れて雨に降られた塔の奴隷たちがぞろぞろと姿を現した。俺はホッとしてそのうちエメンタールもやって来るだろうと人々の波から視線を外した。人数が増えた広間はより騒がしくなり、雨の影響で上半身裸の男たちがウロウロしている。若い女たちはその格好に目を逸らしたり頬を赤らめたり、嫌悪の視線を向けた。男女入り交じる広間でも長年一緒に過ごすと羞恥心が薄れるらしい。



奴隷たちが大方集まると広間はいつもの調子に戻った。おしゃべりをする者、既に食事を終えて仮眠を取る者、加えて今日は久しい雨を喜ぶ者が多かった。



(来ないな……)



もうすぐ食事を食べ終わってしまう。いくら何でも遅すぎないだろうか。胸の中を嫌な不安が渦巻いた。



(迎えに行こう)


そう決意して膝に手をあてて立ち上がった。床に食器を置いて食事をする人々の間を、体を捻って何とかすり抜けて扉の外に出た。



人数の多さに息苦しかった肺が新鮮な空気を取り込んだ。肌をしっとりと濡れた冷気が纏って頭が冴える。止まない雨が屋根の縁を辿って垣根に落ちる。



ふと、通路の先に山座りをして小さくなった人影を見つけた。髪がピタリと頭に張りついて奴隷服もずいぶんと色を変えていた。まるで雨の中を外で作業していたようにぐしょ濡れの体は小刻みに震えていた。



俺はそろそろと近づいて相手を確認しようと歩を進めた。背後から覗きこむようにして見た横顔が見慣れた姿だと分かると自然と笑みが溢れた。




「パル」


名前を呼ぶと小さな体がビクリと大きく飛びはね、彼はさらに膝を抱えて小さくなった。


「どうしたんだよ!?そんなに濡れて……体拭かないと風邪引くよ。ほら、行こう!?」


パルに手を差し出して体を引き上げようとしたけれど、首を左右に小さく振ってあっさりと断られてしまった。



(どうしたんだろう……こんなパルは初めて見るな)

山座りで膝を抱えたまま一向に顔を上げる気配のないパルの隣に腰を下ろし、そっと震え続ける背に手を這わせた。







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あきゅろす。
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