第三の国
高砂派の強行6
烙印所に男の悲鳴が響いた。耳を押さえてのたうち回り、他の監視たちは俺から飛び退いて青ざめていた。その様が滑稽で、俺はこらえきれずに微笑した。
「貴様っ……!!」
「ぐっ!!」
耳から血を垂れ流しながら、男は俺の腫れ上がった顔を力強く踏みつけた。固い靴の裏が鼻を曲げ、口内に鉄の味が広がる。まるで蟻を潰すかのように狙いを定めて監視の足が何度も何度も降ってくる。
「くっ……ははっ……」
何だかおかしくてたまらなかった。こんな所で袋叩きにあっている自分も、間抜けに近づいてきた監視も。死ぬ間際だというのに、どうしてだろうな。
「何がおかしい!?」
笑い続ける俺を気味悪く思ったのか、小柄な監視はのけ反りながら俺に尋ね、俺はそれを鼻で笑うことで答えた。
激痛を通りこして感覚が麻痺しているのか、体はもう痛みさえ感じない。ただただ重く、どこまでも気だるかった。
不快な肉の欠片を口の中から吐き出し、俺はうめくように言葉を告げた。
「ゴーダがやってなかったら、俺が高砂を刺してたよ」
シンと静まり返る烙印所。次第に監視たちの温度が上がっていくのが分かる。各々が怒りに手を震わせ、手にした鞭をしならせた。
「おい、桶の蓋を開けろ」
耳に当て布をしながら、細目の監視は俺の体を持ち上げて首を締めた。その顔には薄笑いが刻まれていて、どこか自信に満ちた嫌な笑みに俺は寒気がした。
「知ってるか!?世の中には人の肉を喰う虫がいるそうだ」
「うっ…かは!!」
なんだこいつ。
何の話をしてる…。
窒息していく苦しさに喘いでいると、水の入っていないもうひとつの箱がカタカタと揺れた。
「人の血液に反応して襲いかかるらしい……なあ、エメンタール。この桶の中――何だと思う!?」
監視は愉しそうに桶を足で小突いた。
(まさかー――まさかっ!!)
「楽には死なせてやらねぇよ。虫に喰われてジワジワと死んでいけ」
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