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第三の国
高砂派の強行5



息が続く限界まできたところで水中から引きずられて顔を上げた。鼻に入った水がツンと染みる。絶対に飲み込むまいと唾と一緒に勢いよく外に吐き出すと、喉の奥がヒリヒリとした。体が酸素を求め俺は制限されていた分を取り戻すように、何度も荒い呼吸を繰り返した。


水に浸かった髪は頭に重く乗しかかり、滴が顎を伝って床に落ちる。



小柄な監視と下監に体を押さえられ、別の中監はひたすら俺を鞭でいたぶる。ただ一人、この場にいて俺に触れもしない細目の監視だけが、目に強い憎悪を灯して俺を睨み付けていた。



「あの方の苦しみはこんなものじゃない」



(あの…方…!?)


まるで神でも崇拝するかのような口ぶりに俺は眉をひそめた。細目の監視は自分の腰にぶら下がっている鞭に指を這わせ、奴隷たちの血で変色したそれを無機質な顔で取り出した。俺を脅すように何度も素振りをし、その度に床に鞭痕を残す。俺を戒めていた監視たちが一歩、二歩と離れていった。


「天主様への恩を忘れ、あろうことか卑しい分際であの方に手をかけた。……あの方は……高砂様は未だ床についてお命を縮めておられる!!お前たちがのうのうと生きているというのにな!!」


「ぐあっ…ああ…はっ!!」


空気を裂く嫌な音の直後、憎しみの籠った怒りを俺は鞭と一緒に何度も浴びた。


(そうか……こいつら、高砂派…)


あけびが来てからというもの奴隷も監視もあいつに懐柔されていく人間が増える一方で、一部の根強い高砂派は過激さを増して不在の主を待っていた。



(こいつらはその一部だ……)


鞭打たれながら垣間見た監視たちは、苛立ちと興奮の入り交じった目で俺を見ていた。



「あの場にいたならお前も共犯だ。行方知れずのゴーダの代わりに、お前が制裁を受けろ」



「があぁぁあぁぁあぁ!!」




四人がかりで放たれる罰刑に体が火を吹いたように熱くなった。傷の上から新たにつけられる奴隷の証に歯をくいしばって、にじむ涙をこらえるしか出来なかった。










◇◇◇◇◇



「しぶといですね。もう一思いに刺してしまいましょうよ。奴隷が一人死んだところで、誰も気に止めませんよ」


「俺たちに処刑は許されてねぇ!!知ってんだろ!?」


「だけど、このままじゃ埒があかないな」


監視たちが話すのを意識の底で聞きながら、俺は床に横たえていた。もう瞬きをするのも指一本動かすのも億劫だった。



気がつけば日が傾きかけていて、床に転がって朦朧としながらそれでも目だけは相手を睨み上げた。



鞭打ちと水刑を散々受けて体は衝撃と冷えに震え、顔も腫れ上がっていた。縛られた手足が擦れ、殴られた箇所にが内出血を起こしている。桶を蹴り続けた膝は両方とも切れて血が出ている。



「何かいい残すことはあるか!?これがお前の最後の言葉だ」



下監が喜びに顔を緩め、中監二人は正気かと驚愕の表情を浮かべた。俺は大きく息を吐いてから顔を上げると、細目の男に精一杯の笑顔を向けた。



「こっち……きて…」


誘うように熱のこもった声で、ひたすらに相手を見つめる。


「こえ…とどか……ない…から」


男は渋い顔つきで床に顔をつけた俺の前に来て膝をついた。口をパクパクとさせる俺に眉間にシワを刻んで耳を近づける。






俺は気力を振り絞って膝立ちになると―――その耳に思いきりかじりついた。









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あきゅろす。
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