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第三の国
高砂派の強行


カゼウスの会が行われた翌日も、表面上の生活は何も変わらなかった。 朝早くから肉体労働者をし、塔の奴隷たちはしなる鞭の餌食にされていた。



悲鳴を聞きながら見上げた空にはこれまで照り返し続けた真夏の太陽が影を潜め、大きな雨雲によって覆われていた。そのリコッタでの珍しい天気に、俺はしばらく灰色に濁った空を眺めた。



ふと、隣に影が射して周りの影は一段と濃さを増す。


「なあなあ。昨日は集まりだったんだろ!?ロックフォール、何て言ってたんだ!?」



声をかけられ横を見ると、年齢に不釣り合いな小さな体が目に映った。細い手足に、首の下には鎖骨が浮き出ているーーー普通ならぐんぐん成長する年頃の筈なのに、リコッタの少年たちは総じて栄養不足で発育が悪い。



「ど、どうしたんだよエメンタール!?」


じっと体を見つめる俺に恥ずかしくなったのか、パルは少し身動ぎをして首をつめた。



「なぁ、パル。お前今日から俺のパン半分食えよ。いくら何でも細すぎる」


そんな偏った食べ方で大丈夫なのかは分からないが、食わないよりはマシだろう。出来ればもっとちゃんとした物を食べさせてやりたいが、こんな生活でそれは望めそうもない。



「イヤだ!!エメンタールが餓死するじゃん!!」


「俺はいいって。いいから言う通りにしろって」


俺の場合、出されるわずかな食事にありつけなくても狩りに行けば食い物なんて易々と口にする事が出来た。年の割に俺の発育が良いのは、この二年でそうやって浅ましく食い物にありついていたからだ。



「ヤダヤダヤダ!!俺はずぇったいに貰わねぇかんな!!」


舌を出して抵抗するパルは頑として譲らない。こういう意地の張り方はゴーダにそっくりだ。監視たちに気づかれないように小声で話ながら、陽に焼けたパルの髪をそっと撫でた。



「俺は本当に大丈夫だから」

「監視の所で……食べ物もらえるから!?」


パルは少し躊躇いながらそう言うと、今度はうら寂しそうな顔で俯いた。口元は何かに耐えるようにギュッと結ばれ、時折覗く白い歯も全く顔を出さない。



「…………パル!?」



「そこっっ!!きびきび働けぇぇ!!手を休めるな!!」


二度の風を裂く音に合わせて、長い鞭が背中を横走った。久しぶりに叩かれた衝撃に息が詰まった。



「ガキ!!貴様は塔内の飾り付けに回れ。……おい、エメンタール。お前はこっちだ」


俺はパルに大丈夫だと目配せをして監視の後に続いた。塔の中に消えていくパルの小さな体はあまりに頼りなく、シュンと気落ちしているのがありありと伝わってきた。



これまでパルに話したことはないけど、あいつは俺が夜中に何をしているかーー多分、知ってるんだろう。



平気で敵を抱く俺を卑しいと思うだろうか。それとも、信じられないと嘆くだろうか。



いつも元気なパルが見せた悲しい表情を思い出しながら、命じられた通りに監視の後に続いた。








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あきゅろす。
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