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第三の国
白い手


――暗い。



カビ臭さと陰鬱とした雰囲気が辺りに漂う。蒸し返るようなリコッタの夏が過ぎて、秋の風が天井横の通気孔から流れてきた。


地上の空気を感じることは出来ても、見ることは叶わない。頑丈な足枷が邪魔をする。もがいてももがいても決して届かない通気孔との距離が、ただただ、どうしようもなく遠かった。







「おらっ!!起きろっっ!!」



冷たい水が全身を包む感覚と、膿んだ傷口に痛烈に染みる痛さで夢と現実の間から目を覚ました。


「誰が寝ていいと言った!?」

筋肉の膨れ上がった監視の腕が腰に伸び、すかさず俺に振り下ろされる。黒く変色した痣の上を鞭が走り、大きな叫び声を上げた。



気を失っては起こされ、また気を失う。この繰り返し。

俺専用の檻の中、もう何日も暴行を受ける日々が続いていた。







「しかしこいつ、なかなか死にませんね。水しか与えてないってのに、大した根性だ。もう二週間ですよ!?」



「奴隷の性根が骨の髄まで染みついてるんだろうよ。こいつらは人間として最低限の食事しか与えられてなかったからな」



痛みに悶える俺を満足そうに見下ろす監視たちは、源平の手当てを受けていたあの夜、俺をここに隔離した男たちだ。


あの夜、突然医療室を訪ねてきた顔ぶれには見覚えがあった。


――高砂の側近だ。




「皮肉なもんだなぁ、ゴーダ。お前の嫌う奴隷としての生活が、今のお前を支えているんだ。普通に生きていたら、二週間も身が持つ筈がない。……ははっ。家畜生活も捨てたもんじゃないな!?」



「まあそれも、直に重陽から現れる処刑班が来るまでだけどな。ふははははっ!!」



監視たちの高笑いが石壁に反響する。耳障りな嘲笑の渦に包まれながら俺は冷たい床を見つめた。



「おい、交代の時間だ」


交代を告げる鐘が鳴り、男たちが足早に去っていく。


俺は顎を上げて頭上高くにある通気孔を見た。











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