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第三の国
ロックフォールの尽力2

大部屋の扉を開けると、室内には異様な光景が広がっていた。


いつもなら寝相の悪い男たちがその辺りを転がり、俺は爪先立ちでその間を縫うようにして床につく……だけど、今日は誰一人として寝ていなかった。



変わりに、70〜80人ほどの奴隷たちが列を作り厳しい顔つきで正座をしていた。どうやって来たのか中には今回は女性の姿もちらほらあって、部屋は重苦しいほどの緊張感に包まれていた。



「おう。チェダー、遅かったじゃねぇか」


ずらりと並ぶ奴隷たちと対面しながらロックフォールは部屋の上座からいつもと同じ豪快な笑顔を見せた。その様子に、ほっとする。


「なんだぁ!?エメンタールの野郎は一緒じゃねぇのか!?」


「うん。でも、後から来ると思うよ……ねぇ、それよりコレ。何ごとなの!?」


俺は室内の人々から好奇の視線を受けながら、入口から一番遠くにいるロックフォールに届くように声を張った。



「がははっ。数が多くてビビッちまったか!?まあこっち来いや。ちょうど今からが本題だ」


俺は手招きをするロックフォールと数人の大人たちが座る上座近くまで行き、対面する集団の一番角に腰を下ろした。ふと隣に気を向ければ、恰幅の良いおばちゃんが人好きのする笑顔で迎えてくれた。





カゼウスの会。


ロックフォールを筆頭に、奴隷幹部たちと国の奪回を狙う奴隷たちによって行われる定例の集会を俺たちはこう呼んでいた。主に宮殿と塔の選ばれた人だけが参加を許される会は、通常20名前後で行われている。俺もゴーダとエメンタールと一緒に何度がはた目に加わったことがあるが、今日は明らかに様子がおかしい。人が多すぎる。いつもの四倍はいる。



そして首をひねるのが、いつもは居ない中庭や……恐らく二の宮・三の宮を日々の働き場としている奴隷たちも、その顔ぶれとして鎮座しているということだった。その様は正に圧巻で、リコッタで働く2000人の統率者たちがここにいる。そう思うと、ことの大きさにゴクリと喉が鳴った。



彼らが放つものものしい雰囲気に、身がすくむ思いがした。未だかつて経験したことのない緊張感に手には汗がにじむ。



ゴーダとエメンタールがいないことが、すごく心細い。



(でも、いつもいつも二人に頼ってばかりではダメだ)


俺はぐっと目線を上げて、上座にいるロックフォールをしっかりと見据えた。




「フェタ、ヴァランセ、それからミモレットの各島から援護物資の調達が完了した」


ロックフォールがそう言うのを合図に、人々がひしめきあう大部屋は歓喜に踊った。70人の前には大きな布が敷かれていて、幹部の一人がそれを手に取ると中のものを勢いよく全員の眼前にさらす。



「ついにこの時が来たか!!」

「くっ……この日を、どれほど待ち詫びたことか!!」


「やあっとかい!?男どもの仕事は効率が悪いったらありゃしないよ。でも……良くやったよ!!ロックフォール。これであたしらも協力出来るってもんだ」



集団の最前列にいる俺には、布の下に隠されていたものが何かよく見えた。


それは大量の剣や槍、小振りで頑丈そうな弓矢などで、種類も様々であった。一番近くにあった短剣をよく見ると、束と剣身が一体に作られていて刀身の中央部に緩やかなくびれがある。ここではあまり見慣れない形だが、以前エメンタールが教えてくれた。あれは世界最南端の島ヴァランセの名刀で、高価な装飾がつけば収集の一環として他国の富裕層に買い取られ、また簡素な作りのものは日用品として流通しているらしい。もちろん、戦下では武器としても使用される。



「でも、あんな数……一体どうやって……!?」



俺の小さな疑問に、隣でロックフォールを労っていたおばちゃんが答えてくれた。


「あっはは。チェダーちゃんだっけ!?あんた、この事を知らされてなかったのかい!?ありゃあね、ロックフォールが奴隷になってから五年かけて集めた代物さね。ほら、あの子は元は軍人だろ!?あちこちに戦争を一緒に闘った仲間がいるわけさ」


それは俺たちには知らされなかった、ロックフォールならではの人脈なのだろう。和神への攻撃の機会を今か今かと俺たちがヤキモキしている間にも、彼は虎視眈々と準備を重ねていたんだ。



それは、豪快でがさつで面倒見の良いロックフォールのもう一つの軍人の顔だった。






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