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第三の国
ロックフォールの尽力


大部屋までの道のりを俺は源平さんに続いて歩いていた。



その道すがらで、監視棟の部屋から若い少年たちの笑い声や軽い言い合いを交わす賑やかな様子が垣間見えた。


自分とそう年端の違わない彼らだが、大国の監視と支配国の奴隷という天地ほどにも異なる境遇に、えもいわれぬ苦い気持ちが胸に広がった。



リコッタの奴隷たちはいつも、昼も夜も働いて空きっ腹に固いパンと味気のないスープをかき込み、それから他愛ない会話をいつくか済ませると重いからだを引きずって大部屋になだれ込む。そうして半時も経たないうちに、その大半が泥のように深い眠りに落ちるんだ。



だけど、俺の目に映る少年たちは酒を飲んで女や美男を傍らにはべらせ、賭け事に興じて笑っている。更けゆく夜を楽しむように、密かな暗がりの雰囲気にゆっくりと己を解放していくように。





「いつもこう騒がしいわけではありませんよ」



いつの間にか俯きながら歩いていた俺に気がづいた源平さんは、困ったような顔で微笑んだ。



「あなたにとっては、とても気分の良い光景とは言い難いでしょう。ですが彼らも、決して喜ばしい境遇の者ばかりではありません。田舎から身一つで都に参じ、やっとの思いで神試と呼ばれる困難な試験を及第して武人や文人となり、今こうして監視としてリコッタで責務に就いている者も少なくないのです」



源平はチェダーの歩幅に合わせながら、話の先を続けた。



「彼らは優秀であればあるほど、十代も半ばでこの道を選ばざるを得なくなります。和神は大きくて豊かな国ですが、本当に満たされているのは肥沃な土地や産物を持つ一部の州だけですからね。神都から外れる程に……人々の暮らしは貧しくなる。生まれ育った土地を捨てて、彼らは家を背負い人生をかけてここにいる。……もちろんあなた方の働きには敵いませんが、ご存知のように彼らも厳しい上監の下で日々心の狭い思いをしています。唯一、夜監のないこんな日だけが彼らの憩いの時なのです。……だからどうか、許してやって下さいね」



俺たちを鞭打ち罵倒するばかりの監視たちは誰も彼もが同じに見えていた。特にゴーダを痛めつけるやつは、みんな人を見下すことに慣れた嫌な顔をしていた。そんな彼らを俺は『監視』と一つにくくり、断面的に捉えてただ恨んでいた。



この話を聞いたからといって、彼らから受けた積年の傷が癒えることも卑劣な行為を許すことも、絶対にない………。



だけど、彼らにも守ろうとする者があったのだと……。俺たちが仲間を大切にするように、監視たちにも何かしらの愛惜の念があるのだとわずかに救われるような心地がした。




「あなたを上監に持つ方は幸せですね」



素直な気持ちが口をついた。こんな風に下監の行いを優しく庇い、奴隷の俺にまで気を配る監視をこれまでに見たことがない。



「ふふっ。そうですか!?嬉しいですね。ありがとう御座います」



柔らかく笑う源平と一緒に、彼の右目の下にある三角の泣き黒子が緩やかに形を変えた。







それから部屋の前まで送ってもらうと、俺は出来るだけ深く頭を下げてお休みなさいと別れの挨拶を告げた。








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