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第三の国
被害のあと4


「…………顔、赤いですよ!?」


「赤くありません。気のせいです」


笑いながら顔を覗きこんでくる源平に、俺はわざと淡々と切り返した。正直、心臓は早鐘を打っていたし顔も赤かっただろうけど、それを表に出すのは嫌で必死に虚勢を張った。



「……ふふっ。そうですね」

そんな俺の態度を見破ってか、源平はそれ以上話を拡げようとはしなかった。



「さて、うつ伏せになれますか!?背中の傷口の具合を見せて頂きたいので……フゥ。すみません、ちょっと失礼します」


源平は束になって落ちた髪を鬱陶しそうに見て、くくっていた髪紐を解いた。癖のない薄紫の髪が全体にはらりと落ち、指の間を流れて手早く左肩にまとめられていく。すくっても落ちる後れ毛と綺麗な横顔が部屋の蝋燭に妖艶に照らされている。それを見ていると、俺は生きた絵を見ているような不思議な気分になった。

ずっと眺めていた俺の視線に気づいた薄紫の瞳が、半円を描いて垂れ下がり辺りに一層の色香が立つ。





俺は居心地の悪さにサッと目を逸らした。



思えば、この男とこうして二人で話をするのは初めてかもしれない。チェダーが襲われた夜も、以前あけびに呼ばれた時も常に誰かしらが側にいた。




「………っつ!!」


俺は真横になった体勢をゆっくりと崩して、言われた通り枕に顔を埋めてうつ伏せになった。体を動かす度に傷口に亀裂が入り、背中の痛みが広がった。



「……何が、そんなに忙しかったんですか!?」


痛みを誤魔化すために開いた口は、少し棘を持っていた。本来なら奴隷の俺が医療長に取るべき態度じゃない。少なくともここが塔なら、俺は絶対にこんな口調では話さない。だけど、今は他に誰もいないんだ。ろくに動けないのに、何を取り繕う必要がある。



「あけびさんも言ってましたし、気になりますよね。何てことはありません。最近ちょっと下らない小競り合いが多くて……その治療にあたっていたんですよ」



「小競り合い……!?」






――まさか監視と奴隷が!?

いや。武器の調達まで済ませて天主の来殿を待ってるロックフォールやカゼウスの大人たちがそんな馬鹿な事をする訳がない。だとしたら……。





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あきゅろす。
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