第三の国
あけびとエメンタール8
「……怖いんです」
魂を抜かれたように力無く項垂れて床を見つめながら、チェダーはこれまでの二週間の思いを静かに打ち明け始めた。
「広間であれだけの騒ぎがあったのに、まるで何もなかったように日々は過ぎて……。俺のことはいいんです。でも、ゴーダがいない事には誰も触れなくて。それが、みんなの間では暗黙の了解みたいになってて」
ついぞ語られることのなかったチェダーの本心を、俺はただ黙って聞いていた。水を打ったように静まり返った室内は蝋燭のゆらめきさえ聞こえてきそうなほどだった。
「もしかしたら、このまま二度とゴーダには会えないんじゃないかと思って……今こうしている間もゴーダは苦しんでるかもしれないのに、それなのに俺はあの日を思い出してビクビク怯えてばかりで……怖い……怖い。高砂に会うのが。でも、ゴーダに会えないのはもっと怖いんです!!……顔が見たい……声が聞きたい……少しでいいから……」
『会いたい』
高砂に抱かれた夜でさえ気丈に振る舞っていたチェダーが、うずくまって泣いていた。
ゴーダを想って。
ゴーダだけを、想って。
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