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第三の国
あけびとエメンタール7

源平はいったい何を見たのか。そして、なぜ俺たちに謝るのか。考えれば考えるほどする嫌な予感に、背中からはじっとりと汗がにじんだ。


まだ終わりを渋るかのような晩夏の暑さが肌にまとわりつく空気に感じられたが、今夜はまるで気にならない。



俺たちにはそれ以上に気がかりなことがある。




回りくどい説明は一切省き、源平は結論だけを先に述べた。




「ゴーダ君のことなんですが……彼は医療室での治療中に連れていかれてしまいました」





別れて以降初めて耳にしたゴーダの確かな消息は、俺たちの胸を潰すような苦しさを伴う内容だった。チェダーも心構えをしていたのか、即座に反応を示す。





「……だれに……誰にですか!?」


「事態を聞きつけた宮殿長の側近たちです。……おそらくは天主様直下の処刑班がリコッタに到着するまでの間、彼らはゴーダ君を軟禁するつもりなのでしょう」


「……軟禁……」


憂いを帯びたチェダーの顔はこれまで見たどんな顔よりも痛々しかった。



「どこに連れて行かれたか、わかりますか!?」



俺は矢継ぎ早に質問したい気持ちを必死に圧し殺して、ゴーダの居場所の判明を最優先にした。とにかく今は無事だという報せが欲しい。



期待を込めた俺たちの思いとは裏腹に、源平は切ない顔で首をひとつ横に振ってもう一度謝った。




「本当にごめんなさい。医療班である私では、リコッタの離宮の全容を知るには限界があるんです。出来る限り探してはみたのですが、なにぶん宮殿と塔を始め二の宮・三の宮と続くこの別邸の広さ……各宮では、万一のために私たちにさえ知られていない隠し部屋や……それから罪人や捕虜を留めるための地下牢が数多くあり、それをひとつずつ探して回るのは二週間ではとても……ただ……」



「ただ、なんですか!?」


「その全容を把握していらっしゃる方がこのリコッタで二人います。ひとりは宮殿長……そして、もう一人は……」




俺たちはすぐさま反応して、長椅子でくつろぐ男に目を向けた。俺たちのこれまでのやり取りをあけびは静かに聞いていたが、源平を含めた全員のすがるような眼差しを受けると、大きな溜め息を漏らして頭を掻いた。




「あけび様。どこかにゴーダ君がかくまわれていそうな場所を、ご存知ありませんか!?」


「そう言われてもな。俺も就任直後で、まだ行ったこともない宮だってあるんだよ……たまにイジメられて、宮殿にも入れてもらえなかったりするし」


「風当たりが強いのはご自分のせいです」


辛辣な一言を源平は臆することなく進言する。あけびは実力はあるんだろうが、どうにも自由主義すぎる節がある。エポワスにいた時も、そんな上監に源平や椿は翻弄されていたんだろうな。



俺が余計なことを考えていると、隣で椅子がひかれる音がした。




「お願いします。教えて下さい!!何でもかまいませんから……どんな小さな事でもいいんです!!お願いします!!……お願い……お願いだから……」



立ち上がって机越しにあけびに詰め寄るチェダーに、いつもの冷静さはなかった。俺はそのまま崩れ落ちそうになる親友の肩を支えて、ゆっくりとあけびから引き離した。



あけびも源平も取り乱す親友に動じることはなく、チェダーの様子をただジッと見守っていた。






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あきゅろす。
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