第三の国
あけびとエメンタール6
「そう、問題はそこだ。誰かが横流ししたか、もしくは宮殿長が蘭香をどこかから奪ってきたかだ。だがどちらにせよ、本人不在じゃ確かめようがない。だから、この件は一先ず保留だ」
あけびは淡々と告げて、一つ目の用件を切り上げた。
◇◇◇◇◇
香の話を終えると、窓の外には星が点々と光っていた。今日は月も出ていて、夜空が美しい。
外の景色に気をとられていると、源平が冷たいお茶を入れて俺とチェダーに渡してくれた。
「喉が渇いたでしょう!?飲みなさい」
「すみません。ありがとうございます」
椅子に腰掛けたままチェダーは恭しく頭を下げて、源平に感謝を述べた。俺もその後に続いて礼を言った。
「いいえ、構いませんよ。良かったらこれもお上がりなさい」
「まさかシニガンか!?あんなもの食わせたら死んじまうぞ」
「違いますよ。それにあれは、リコッタの監視たちに対するあなたのイタズラでしょう!?ここに来た時に門番に渡したら、酷く顔をしかめていましたよ」
「ハハッ。そりゃ、笑えるな。見たかったぜ!!」
「……ふぅ。あんな大人子供は放っておいて。さあ、あなた方は気にせずお食べなさい。美味しいですよ」
目の前には見慣れない菓子が置かれていた。菓子なんて贅沢品は久しぶりにみたが、どうやらこれもエポワス産らしい。
出された茶にも菓子にも二人して手をつけないでいると、見かねたあけびがひとつ摘んで食べて見せた。
「毒なんか入ってないからさっさと食え。部屋に呼んだ手間賃だと思えばいい」
俺は小さくため息をついてガラスの茶器を取ると、ゆっくりと口をつけた。意地を張っていると思われるのは癪だったから、言われた通りにした。
そして、水以外の飲料を口にするのは本当に久しぶりだということに、気が付いた。
これまでの自分の立場を俺は改めて思い知った。
「それから二つ目なんだが、これは俺からじゃなく源平が話す。直接の目撃者だからな」
そう前置きを残してあけびは一息ついたように、長椅子に背を預けてくつろいだ。
「目撃者、ですか!?」
「そうです。でも最初に謝っておきます。本当にすみませんでした」
源平によっていきなり謝罪された俺たちは訳がわからないまま、ただ二人で顔を見合せるしか出来なかった。
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