第三の国
あけびとエメンタール5
メディス。
和大陸の東に位置し、どんな病もメディスに行けば治ると言われている医療先進国。
小国だけれど、各国のお偉方からの救命依頼と薬草の流通なんかで財を成している。
ただ、和神によるパニール侵略戦争の時にこちら側について共闘していた為に、国自体は残ったもののメディスもずいぶんと辛酸を嘗めたと聞いている。
(だけど、どうして今その名前が出てくるんだ!? )
俺もチェダーも押し黙って考えを巡らせた。
あけびは無理に続きを話さず、俺たちに思考する時間を十分に与えてくれた。
「その香の原料は、メディスでしか採れないものなんですね!?」
しばらくの後、チェダーが眉を潜めながらあけびに問いかけた。
「ご名答。あの謎多き医療先進国でしか採れない代物だ。中央政府の王族貴族が使うならまだしも、支配下国の地方監視長が持つにはちょっと値が張りすぎだぜ」
同じ立場にあるあけびが言うのなら、間違いないのだろう。俺たちは顔を見合せて、困り果てた。
「源平、香の作用は!?」
「強力です。それも、かなり。広間で使用されたものでも、少し香りを嗅いだだけで手足の痺れや目眩、思考力の低下を誘います。加えて、交感神経に働きかけ気分の向上や性的興奮を異常に高める効果にも秀でた物でした」
「つまりは、めちゃくちゃヤリたくなる香」
「身も蓋もありませんね、あけび様」
「わかりやすくて良いだろ!?」
「特にあの物置部屋に焚かれていたものは、いくつかの原料が合わさった特別な物のようで……。残念ながら詳しい調合法は私にも分かりません」
「そう……ですか」
複雑な表情でチェダーはひとつ頷いた。
「値が張るって、具体的にはどのくらい!?」
『値が張る』なんて言葉じゃ、いまいち現実味がわかない。俺は探求心を抑えきれずに、あけびの答えを待った。
「そうだな……まあ、金五十はかたいだろうな」
「なっ!!金五十!?」
俺は思わずのけ反った。隣ではチェダーも、その金額に耳を疑っているように息を呑んだ。
軽々しく工面できるような額ではない。それだけあれば、リコッタでは家が建つ。
(……なるほど。一気に説得力が出てきたな)
「だけど、そんな大層な代物……どうやって手に入れたんだ!?」
俺は誰に言うでもなく、小さな声で呟くように自問した。
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