第三の国
あけびとエメンタール3
「よく来たな、二人とも。まあ座れよ」
先日の監視服とは違い、今日は薄い寝間着を身に纏ってあけびは俺たちを部屋に迎え入れた。
「あけび様。その格好はちょっと……」
「バカ言うな。あんな暑苦しいのをずっと着てられるかよ」
源平の注意を、あけびは軽く一蹴してみせた。
確かに。
監視長の立場にあるあけびや高砂の服は他の下っぱ軍人とは違って鞭も上質だし、重たい階級章がいくつも付いていて着心地が良さそうだとはとても思えない。
「あの、それで……俺たちに用っていったい!?」
はやる気持ちを抑えきれないチェダーが、あけびに切り出した。
「この間お渡しした、香の原料ですか!?それとも……ゴーダの……」
「宮殿長のことかも知れないぜ!?」
隣でチェダーがグッと息を詰めるのを感じた。
痛烈な一言。
「頑丈極まりない宮殿長様が明日にも作業場に現れるから、その前に俺からお前等に教えてやろうってことかも知れないぜ!?」
少しだけ俯いた親友の顔が憂いものだということは、見なくても分かる。
(嘘だな……そんな筈がない。あの刺し傷がこんなに早く治るわけがないし、第一こいつの下監がつい先日俺に耳打ちしたんだ。……高砂の帰りは少なくとも1ヶ月は先だと)
それでも、体はあの惨状を思い出して小さく震えた。
俺もチェダーもあけびの言葉が偽りだと頭では理解していても、高砂の名に無反応でいることは出来なかった。
「まったく。あなたと言う人は……こんな子供たちをいたぶって恥ずかしくないんですか!?」
「だって、俺が話する前にがっつくんだもん」
「何が“だもん”ですか。あなた幾つです!?」
「今年で28」
「「はっ!?/えっ!?」」
俺とチェダーのすっとんきょうな間抜け声が、二人の会話を遮った。
(……無精髭なんか生やしてるから、もっとおっさんかと思ったぜ)
「何だよお前等!?」
「いえっ……別に」
慌てて取り繕うチェダーも多分同じことを思っていたに違いない。
源平だけが、全員の胸の内を読んでクスクスと笑っていた。
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