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第三の国
あけびとエメンタール2

真っ白な医療服を身に纏って美しい髪を揺らす男の姿に、広間から出てきた奴隷たちが次々に振り返る。


男はバカ丁寧に俺たちを引き留めると、服の袖を折り込んで手招きをした。


「源平さん……こんばんは」

隣でチェダーは当然のように頭を下げて挨拶をする。

「どうも」


対して俺は、あからさまに不機嫌になった。


トゲのある俺の様子に、チェダーは目を丸くしてこちらを覗き見た。


この男には、どうにも後味の悪い印象が残っている。俺がこの間いがぐり監視をバカにした時に、源平はいた。あけびと二人で散々に笑い転げていた張本人だ。あれは、思い返すだけでも……ムッとする。



「ああ。そうそう。この間、あなたが椿をいがぐり頭と言ったのは本当に傑作だった。久しぶりに笑わせてもらいました」


「そうですか。そりゃよう御座いましたね」


「ちょっ、エメンタール!?」

「決して君をバカにした訳ではないから、怒らないでくれると有難いな」


「怒るはずがありません。そんな畏れ多くて、とてもとても」


にっこり笑ってみせた俺を見たチェダーは、額に手を置いてやれやれと呆れていた。


源平は俺の黒い笑みを気にすることもなく、優しく口元を綻ばせている。


(……美しいな)


大人の色気がある。


流れる髪も、この辺では珍しい薄紫の瞳もこの男には良く似合っていた。


結構な地位にあっても腰が低く常に冷静を保っている。早い話が余裕があるのだろうが、狩りの相手はこういう男が理想的だ。


「あ、あの。俺たちに何か……まさか、ゴーダの行方が!?」


俺が源平の値踏みをしていると、チェダーは遠慮がちに用件を聞いた。


「案内しましょう。あけび様がお待ちです」


二人して息をのんだ。



俺は半歩後ろにいるチェダーに振り向き、目で合図を送る。


チェダーは小さく頷いて俺の横に並ぶと、キリッと顔を引き締めた。






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