第三の国
医療班の源平2
『殺すつもりだったのでしょう』
医師独特の包み込むような柔らかな雰囲気を持ちながらも、男の口から出たのは鋭利な刃物のような言葉だった。
本音を聞き出したいのか、それとも俺を動揺させたいのか。
男の読めない腹のうちに、俺は口を閉ざした。
「そう警戒しないで下さい。何も私は、あなたを取って食おうと言う訳じゃありませんよ」
小気味よい笑い声を立てながら、男は汚れた布と桶のお湯を取り替える。
「あんたは!?」
「ああ、失礼しました。私は源平と言います。エポワスより来ました医療班のうちの一人です」
奴隷である俺を相手に、まるで上監や他の監視たちに対するかのように接する。
「なんで、止めた」
「止めに入らなければ、今ごろ宮殿長は屍となっていました。しかし、貴方はいいお友達をお持ちですね」
「えっ!?」
「あなたをここに連れてくる時、二人の少年が必死に頭を下げていました」
俺の脳裏には、エメンタールとパルが浮かび上がった。
最後に二人を見たのは、物置部屋だ。エメンタールは蒼白顔で、パルはひどく混乱していたようだった。
喉の奥に苦いものが込み上げてくる。
「監視である私たちの手を借りるのは本位ではないでしょうに、それでも貴方を想って二人で深々と腰を折っていましたよ」
「……そう、ですか」
「それから、青髪の少年ですが……」
ビクリと体が跳ねた。聞くのが怖くて、わざと思い出すのを避けていた。
(……チェダー)
心にそう唱えただけで、苦しかった。
「大丈夫、無事です。意識も戻って今はあけび様のところで安静にしています」
「そうですか」
無事なら、いい。
それだけで十分だ。
「それと、下監のあの傷は!?一体、何があった……」
源平が下監の死傷について問おうとしたところで、扉が勢いよく開かれた。
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