第三の国
医療班の源平
side ゴーダ
俺は医療部屋の椅子に腰掛け、呆然と床を眺めていた。
『宮殿長は私が。あなた方は彼をお願いします』
「「はいっ!!!!」」
小気味良い号令で、白い医療服を纏った男たちが俊敏に動き出す。
ゆっくりと視線を上げるとそこには高砂と、どうやら生き延びたらしい高砂の下監が診察台に横たわっていた。どちらも血まみれで、意識はない。
ビリビリと衣服を裂く音。
ツンと鼻をつく、消毒の匂い。
目の前を慌ただしく駆ける医療班たち。
感じることは出来ても、心はまだあの物置部屋に残してきたままだった。
高砂に犯されていたチェダーの姿が、今も頭から離れない。
物置部屋での一連の出来事が、はっきりとした残像として繰り返し繰り返し俺を蝕んでいた。
悦に入って歪んだ笑みを見せる高砂。縛りあげられ、チェダーはか細く消え入るような声で俺を呼んでいた。
悔しくて、情けなくて。激情に任せて、俺は何度も高砂を刺した。けれど、刺しても刺しても憎しみは消えず、むしろ一層深まるばかりだった。
「さあ、これで体を拭きなさい」
優しい言葉と共に、湯に浸して絞られた布が差し出された。診察台の上に高砂と下監の姿は既に無く、どこか別の部屋に移されたようだった。
男は椅子に座る俺の前に膝立ちになると、返答のない俺の腕を取って布を当て、こびりついた血を丁寧に拭き取ってくれた。皮膚に伝わる湯の温度が、心地良かった。
男は腕だけでなく、頬や首も同様にしてくれた。俺は特に抵抗することもなく、男に身を委ねた。
サラサラの髪が眼下に揺れる。少しだけ、チェダーの髪に似ていた。
「まるで魂でも抜かれたようですね」
汚れた布を湯桶に浸して洗いながら、男は一人ごとのように呟いた。
「あの深い刺し傷、あなた本当に彼を殺すつもりだったのでしょう!?」
視線は桶に向けたまま、苦く笑う男を俺は見詰めた。確かあけびやエメンタールと一緒に、俺を止めに入った男だ。
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