第三の国
後悔と戸惑い7
あけびは後ろ手に扉を閉めると、部屋の中に佇む俺に切り出した。
「……それで!?どうしたんだ!?いくら俺でも、こんな早さで調べ物は無理なんだが……」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんだ!?」
(どうしてお前は、俺たちに協力する!?)
それだけを聞きに来た。
こいつの発言や行動の深意を悟れないまま、床につくのは気が進まない。
聞けばいい。
だが、いざ本人を前にしたら言葉に出来なかった。
鷹のような鋭く光る眼に、全てを見透かされているようで、身がすくむ。
(まさか、緊張してるのか……!?)
思えば、あけびと完全に二人になったのはこれが始めてだった。体を合わせる目的意外で監視の部屋を訪れた事など、一度としてない。
目は自然と男を追った。
長身で、鍛えられた肉体。
つり目に鼻筋の通った顔。
無精髭を生やした顎と、体からする葉巻の匂いが男盛りをさらに引き立てる。
あけびは、薄い唇を左右に引き伸ばし昼間同様のちっとも笑っていない笑みを浮かべた。
「どうしたんだよ!?黙りこくって!?」
あけびはスカーフを取っていかにも窮屈そうな首もとを緩めた。二つの杯に酒を注ぎ、ひとつを俺に差し出す。
「ほら、飲めよ!?リコッタの蜂蜜酒は旨いぞ!!」
「奴隷に酒を勧める監視長は、パニール中を探してもあんただけでしょうね」
俺は手渡された蜂蜜酒を一気に飲み干すと、口もとを拭い意を決した。
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