第三の国
二人目の犠牲者13
早く解放されたい。
もっと満たされたい。
泥沼の思考に混乱しながら、体中をお菓子のような甘い香りの液体に包まれる。
人々の気を狂わせる悪魔のような香が燻るこの部屋で、俺は呪文を唱えるように繰り返し呼んだ。
「…………ダ……ゴー……ダ……ゴーダ……」
「くひひっ。どんなに呼んでも、王子様はまだこないぞ。ここは監視棟、ゴーダには夜伽であっても縁のない場所だからな!!それに、広間で焚いたあの香。あれも、ただの香ではない。これで特別に調合させたものだ」
何かを掲げる高砂をボンヤリ見つめながら、俺はまた親友を呼んだ。
「……ゴー……ダ……ゴ……ダ」
「ええい、私以外の者の名を呼ぶな!!!!忌々しいっ!!」
激昂した高砂に繋がったまま尻を力一杯平手で張られた。鋭い痛みを持つはずのそこは、何故か鈍く疼くだけ。
散々高砂を受け入れた俺の臀部は、壊れたように反応が弱かった。
「お前はこれからも私の言う通り、いい子にしていればいいんだ……ひひっ」
「イヤ……だ」
今度は思いきり頬を張られ、後ろ髪を捕まれて強引に上を向かされた。
「聞き分けのない子は私は嫌いだよ……ああ、賢いチェダー。覚えておくんだ。くひひっ…………今にそうも言っていられなくなる。友達が大事だろう!?んっ!?」
「……どういう、意味……」
「お前は必ず、また私の元にくるさ。この場にゴーダが現れたら……あいつは私を殺しにかかるだろう。くっひひ……邪魔なんだよあの生意気な小僧は!!それにあの新しい塔長も目障りだ!!排除しなければいけない。ああ、チェダー。私はお前を手に入れるためなら、何でもしよう!!くひひひひっ」
(もう……ダメだ……)
大きな足音が聞こえ、ドアが蹴り破られる音がした。
俺は最後の力を振り絞って、驚く高砂の懐からあるものを掠め取った。
部屋の中にいた全員にここまで話すと、俺は俯いてシーツをキツく握りしめた。
みんなが自分を責めないように、高砂との会話に重点を置いて強姦の細部は出来るだけ削った。
ブリの件、香の件、それから、高砂がゴーダとあけびを疎ましく思っていること。
「高砂は、俺を手にいれたいんじゃない……俺を使って、ゴーダとあなたをリコッタから消し去りたいんだ」
俺はあけびを見ると、高砂といて率直に感じたことを告げた。監視長にしては若い彼がこんなことを聞いて、気分が良い訳がない。それでも、持ち場が違う俺と彼では次にいつ会えるか分からない。
今、伝えなければと思った。
彼は精悍な顔つきで、口元は妖しく笑いこう答えた。
「ははっ。上等じゃないか!!どこからでもかかって来い」
恐れも気負いも感じられないその声に、俺は少し呆気にとられた。彼の真意は上手く汲み取れないけれど、その目は動じず、どこか自信に満ち溢れているように見えた。
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