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*花落し
□客
辺りが藍に染まる
黄昏時も過ぎる時分。

もう此処へ来るのは何度目だろう。
自嘲気味にそう思った。





攘夷浪士との黒い繋がりを疑い
この店に来た。
その実は、今だよく分からない。

店主と名乗った男は、物腰は柔らかく見えたが何処か隙がなく。
噂の"珍しいの"は、変わった奴だった。
髪が銀色なのも確かに変わっているが、
中身も―他の陰間達とも少し違った様に感じた。

聡い様にも見えて あっけらかんとしていて
時々ふと遠い目をする。
掴めない…というのが正直な奴への感想だった。

ただ
それがどうしたと言われたらその通りでもあった。
まだ裏の繋がりはよく見えない。
元々仕事の一つとして来ていたのだから、何も無ければ終わりにしたらいい。


しかし、
どうやらその"珍しいの"と気が合って
"仕事"でなく、そこに向かうようになっていた。
他の仕事も忙しいのだからなかなか行けないが、用のない日は顔を見に行く。


ただ会って話をして。

コトに及ぶ分けでもないが、なんとなく 傍にいた。






今夜も、仕事があがったので店を訪ねていた。
懐から簪を取り出し番頭に通して貰おうとすると
「へぇ… あのぅ…」
珍しく言葉を濁らせた。

「何だ いねぇのか?」
「申し訳ありません…今宵は」

他の客に揚げられたらしい。

そうか。
確かに此処はそういう所だ。
別に驚く事もないのだ。

「…そうかい じゃ 出直してくるわ」
「またお越しくださりまし」


そうだ。
"殆ど" 客はとらないとは言っていたが
幾らかとる事もあるのだろう。
今夜は たまたまタイミングが悪かっただけ。
そんなものだ。


それだけだ。




元来た道を戻るのも虚しいので
少し違う道を と違う曲がり角を曲がってみた。


その時
すれ違った一台の車。
なんとなしに見えた 中の人物は、何処かで見覚えのある…


何処だったか
いや 会っているのだろうか。


夕暮れなのも手伝って モノクロに映るその顔は

――写真?

要人警護に着くにあたり色々な人物の写真を見た。
幕府のお偉いサンからその周囲。
名と肩書、それと少しの黒いウワサ。
最も そういう噂の無い者も居たが、何かと後ろ暗い事をしている輩は少なくなかった。
その中に、さっきの人物が居た筈だ。
確か政界に顔の利く人物。
その裏で天人と繋がりが…

さっきの車は通り過ぎ、その先は―
あの陰間茶屋の方向。

ただ通っただけかもしれないが
…お客か
――普通の?
そんな大物が通うような店なのか?

妙な勘なのか、気になって元来た方へ戻った。



やはり車はあの店の前で停まり、例の男一人降ろすと走り去った。
護衛も付けずに。

「…」

店へ入る男の様子を伺う為、生垣の外からそっと庭の方へ回る。
見ていると店の陰間達と遊ぶ部屋を過ぎ、奥へ。
あの先に居るのは…


『普通の客はとらねぇから』


何か予感の様なものがした。

あの店主絡みでないと奥へは行けないと言っていた。
銀時があまり客をとらないのは、"ああいう"客を相手しているからなのだろうか。
店主の贔屓にする…
政界に繋がりが有るのかあの店主は。


それとも―


いつまでもそこで立っている訳にもいかず、場を離れた。





―奥の間。
「あんたが片桐か 話はよく聞いてる」
「こちらこそ 噂はかねがね 鬼兵隊総長殿」

片桐と呼ばれた男の前には、派手な着物を緩く着た高杉の姿。
その後ろには朱の振袖を纏った銀時が控えていた。

「そちらが 噂の用心棒と言うやつですな」
随分と艶っぽい 等と軽口を叩く片桐に
「さっさと話を始めようぜ それからだ」
高杉が言う。


高杉ら鬼兵隊は天人と手を組み、武器の調達や輸送といったルートを確保した。
その折、片桐の様な政治関係者とも繋がりを持つようになる。
資金提供と引き換えに関所にコネクションを持つなど、利用の仕方は多々あった。

「条件は飲んで貰えるだろうな」
「えぇ そのように」

高杉と話すその男は、何処か下品な笑みを浮かべ話を進めた。



「―…と これでようございますね」
「あぁ」

話も終りに近付き、片桐が懐から扇子を出した。

「そういえば 高杉殿」
「何だぃ」

煙管に新しい煙草を詰めながら高杉が答える。
片桐は銀時の方へ視線を向け、尋ねた。

「その用心棒殿は 腕が立つのでしょうな」
「まぁ そこそこにはな」
「ご謙遜を 高杉殿が近くに置く程の手練れであるのでしょう」
ふっふっ と扇子越しに笑う。
「最近は物騒ですからねぇ 私の周りもきな臭くていけない」
「へぇ そりゃ難儀だな」

詰めた煙草に火を入れ、高杉がふぅっと煙を吹いた。

「武力を貸して欲しいということか」
「話が早いですな」

高杉はくっと口元を歪めた。

「隊の方から何人か寄越そう」
「お気遣い有り難く して高杉殿」
片桐は高杉の後ろへ目線を向け

「その者を貸して戴くのは出来るので?」
「アンタも物好きだな 」
「腕が立つのでしょう?あくまで用心棒としてですよ」
昼間はね と下品な笑みを浮かべた。

「構わねぇが ただコイツは鬼兵隊のモンじゃねぇ」
「と 申すと?」
「俺の命令で動く奴じゃねぇってコトさ」
ふっ と煙を吹いて
「店にいる内は俺の護衛をしてるだけだ それ以外はコイツ次第だな」
「貴殿の頼みでも?」
「まぁ護衛については聞いてくれるかもしんねぇが 後はわからねぇな」
「…面白い事を」
「どう思うかは勝手だがな」

ついと銀時へ眼を向け

「コイツは俺と同じ元攘夷志士だ アンタが言った通り 俺が傍に置いとく程度の腕は持ち合わせてる」

視線を片桐の方へ戻し、ニヤリと笑った。

「十人や二十人殺り合うのはワケ無ぇ ただしその切っ先が誰に向くかは俺には知れねぇがな」
「……」




ちゃきり
銀時の袖の下で 刀の鍔が音を立てた。







「銀時〜 飯だ」

しゃっ と襖が開いて、膳を持った高杉が入って来る。

「やっとか はー」

上物の振袖を半分脱ぎ、寛いでいた銀時が息を吐く。

「だらし無ぇなぁ」
「うるせぇなぁ 堅苦しいんだよ」
「じゃあ言い方変えてやるよ 目の保養にしてい」
「はいはいすんませんでしたー」

ぶつぶつ言いながら大人しく裾だけは少し直した。


「今日のは随分あっさり帰ったな」

猪口に口を付けながら銀時が言う。

「なんだ?遊んで欲しかったのか?」
「は?馬鹿言ってんじゃねー」
マジ勘弁ですからなどと反論する銀時を見て
「まぁ金ヅルの機嫌損ねるのは良かねぇと気付いたんだろ」
高杉がくくっと笑う。

それもあるだろうが、絶対それだけじゃないなと銀時は思う。
さっきの、狂気を含んだ高杉の笑みを思い出しながら。

結局片桐は店で遊ぶ事もせず、帰っていった。


「そういや銀時 あいつはまだ来てんのか?」

ふと思い出したように高杉が尋ねる。
「あいつ?」
「あ…の 吊り目の色男だよ」

まだ銀時には彼が真選組副長である事は教えていない。
こんな言い方で分かるか?とも思ったが案外簡単に思い当たったようだ。

「あぁ たまに来る トシっていうんだってな」
「…! あ … あぁそうか」
「?」
高杉が少し驚いた様子を見せた。

フルネームでないにしても名を教えたか。
偽名も使わずに。

「そうかそうか」


遊興に来ているだけか…
まぁまだ油断は出来ねぇがな。


「…高杉?」
「なんでもねぇ ほら こっち」
手招いて銀時を隣に座らせ
「銀時…」

ゆっくりと唇を合わせた。






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