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*花落し
□潜
 ***


―夜の帳が辺りを包む頃。




店の明かりが燈りはじめる。
警戒されないように私服に着替えた土方は、一人の客として茶屋に訪れた。


『ほおずきや』
屋号の書かれた提灯に明かりが点いた。
「いらっしゃいまし お侍様 いかがです?」
店の者だろう初老の男が手招く。
「そうだな じゃあ少し」

攘夷浪士が関わっているとしたら面が割れているかと心配していたが、一先ずは店に入ることが出来た。


中は至って普通の様子だった。
薄暗い廊下に装飾された行灯。
どこからか三味線の音も聞こえる。

「ささ こちらへ」
ある部屋に通された。
「お食事なさいますか?それともお酒を?」
「じゃあ酒を貰うか」
「へぃ 少々お待ちを」
そう言って初老の男は出ていった。
少しすると振袖姿の陰間が酒と肴を運んで来た。

「どうぞ ごゆるりと」

酌をする手は白くしなやかで。
綺麗に着飾っているがこれは少年なのだ。
オスを抱く趣味はないが怪しまれるのも困る。

「そうだな…踊りを見せて貰えるか?」
「喜んで」


三味線の音が流れる。
優雅に舞う姿を見ながら、俺の意識は違うところにあった。


さっきの男は店主ではないな…
"珍しいの"とやらは店主のモノらしいし…
店主から近付くのが手っ取り早いか。
さて どうしたら店主が出てくるか―



♪テントン テン


三味線の音が終わった。
「…やぁ 中々のモンだな」
「気に入って戴ければ嬉しゅうございます」

にこり微笑む。

その後も料理を摘んだり酌を受けたりしてその日は終わった。


「また来て下さいましね」
「あぁ」

―贔屓を作ってそこから聞き込むか?

まだ収穫らしいものは無かったが捜査の糸口は見えてきた気がした。





「いらっしゃいまし」
「よぉ」


その後何度も茶屋に足をんだ。
何人かの陰間とも共に時間を過ごした。
ただし、何事もないまま。



茶屋の番台に、一人の男が訪れた。
「おぅ 景気はどうだ」
「これはこれは 高杉様。いらっしゃいまし」
高杉と呼ばれた隻眼の男は、ずいずいと店に入って行く。


「変わった事はねぇか?」
高杉は着いて来た初老の男に尋ねた。
「おかげさまで…あ…そういえば最近」
「なんだ?」
「来ているお客なんですが…別に悪さするとかじゃねぇんですがね」
「あ?なら問題ねぇじゃねえか」
「へぇ…男前で優しいらしくて陰間達にも評判いいんですが」
男は少し言いにくそうに
「事に及ばないらしいんで…」
「…ほぉ?」

そういう店に来て
そういう事をしないというのは
ただの趣味か
不能か
或いは―

何らかの裏があるか。


「―ちっと顔出してみるか。今は来てるか?」
「へぃ」
男は高杉を部屋へ案内した。


「こちらで―」
ほんの少し開いた障子から部屋を覗く。
一瞬、高杉の顔が強張る。
「ありゃあ―」
黒髪に鋭い双眸。
間違いない。

真選組副長 土方十四郎。


「…随分珍しい場所で会ったな」
「ご存知ですか?」
「存じるも何も 宿敵だァ。真選組のモンだ」
「なっ…」

高杉はすっとその場を離れ、奥へ歩き出した。
「まぁいい。ちょいと探ってみるか」

何故こんな所にいるのか。
ただ遊興に来ているのか?

それとも何か感づかれたか?


高杉の口許に黒い笑みが浮かんだ。





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あきゅろす。
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