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アーザの火
9

――まただ。またも同じ研究施設内で、今度は白翼の緋眼の死神がせわしなく指示を出している。

「メイオの生成を急げッ!!――いずれ世界中、メイオだけの楽園を共に造ろうではないかッ!!なぁ同士たちよッ!!」

――なんだってッ?!メイオだけの楽園!?しかも緋眼の死神は同士たちと言った。
 つまり、此処にいる研究者全員がメイオだという事実が白日の下晒される。

 過去に起きた黒白大戦の終結も白翼だったからではなく、メイオの能力で終結させたんだッ!!
 人並み外れた身体能力だけで、戦争を幕引かせた。緋眼の死神は間違いなく、最初に創られたメイオだという事実が分かってきた。

 そうでなければ、リーダー格として、また最初のメイオとして戦争終結に終止符を打てないではないか。
 これは御堂の仮説でも、確信があった。そして、戦争終結、黒翼と白翼による差別のない世界を作り変える計画場所、それがルーア・ルースッ!!

 行雲様もこの事実を知っていたのだろうかッ?神に等しき七人の裁判官でも知りえない事柄があるとしたら……?
 とここで回想はなくなり、御堂の意識は現在へと引き戻される。

 周りをぼんやりと見渡せば、国定と雲母が特に心配そうに俺を凝視していた。
 真白と霧也に至っては、これといって変わりもなく普通に椅子に座り待機している。

 若いメイオは物珍しそうに御堂を観察し、声をかけてきた。

「なんやぁ、自分らルーア・ルース目指してるん聞きましたえ?で、何か能力で視えたんちゃいます?」

「……あぁ、君たちメイオだけの楽園を、この世界で創り出そうとしているのが緋眼の死神だ。彼もまた白翼ではなく最初に生み出されたメイオだという事実が判明したよ。これは俺の憶測だけど、確かにこの目で視たんだ」

 御堂の言葉に衝撃を受けたのは、その場にいる全員だった。雲母も霧也は言うところの部外者に当たるのだが、流石に段々と真実が視えてくる。
 
「それで……研究施設だけが映し出されただけか?」

 何を話せば良いのか言葉に詰まった一行のうち、国定だけは毅然としていた。

「そうだね。またかって感じ。でも、俺がイーリスの柄を触る事で真相に近づいてきているのは確かだね」

「……行雲は知っていて、緋眼の死神の殺害を目的に、自由に動ける俺らに託したんじゃないのか?」

 国定が肯定を促すように問いかければ「そうかも知れないね……」とだけ御堂から返ってきた。
 まだいくつか分からない点もありながら、雲母が言いづらそうに口を開く。

「で、次なんですがぁ、セウ島のもう一つの離れ孤島にも印書きましたよねぇ?だからそこに次は行ってみるべきですぅ」

 沈んだ面持ちの雲母に御堂が「いつもありがとう、雲母」と肩にぽんっと軽く掌を置く。
 それだけで場が少しは和やかになる。幼馴染だからこその微笑ましい光景に、国定もこの時ばかりは助けられた。

 さぁ、と仕切りなおしに両手をパンッと叩いた若いメイオが、提案する。

「あんさんら、もうこない夜更けですえ?泊まるあてがないんでしたら、うちに泊まってってくんなし。大した持て成しは出来へんどすが」

 その言葉に甘えるように、一行はメイオの家で雑魚寝をした。
 朝日が昇る頃には礼を言って出立する。

 寝起きのメイオが早朝にも関わらず、お見送りするといってきかなかった。

「ほんじゃあ、気をつけてぇな。僕もこの世界の行く末が楽しみになってきはったわぁ。あんさんらに任せたでぇ」

「任されても、な。どうなるかは誰にも分からん。じゃあな、世話になった」

 ぶっきらぼうに国定がそう呟くと、真白以外全員が翼を広げて空へと昇った。
 次に向かうはヴェント島より北の孤島だった。この世界にはいくつも空に島々が浮かんであって、地図に名前のない島も多い。

 飛行している最中も相変わらず、霧也は真白を抱えたままだし、御堂と雲母が手を繋いで楽しそうにそれぞれ2対2で会話している。
――俺だけ除け者かよ。あぁ、そうかよッ!!

 何だか自暴自棄になりながらも、次の目的地の中間地点に夕方までには降り立つことができた。
 夜は視界が狭まるため、移動はあまり行わない事にしている。なるべく、休憩できる宿屋を見つけては団体で申し込む。

 軍の人間にはまだ一度しか出会っていないのは、ツイているからなのかは定かじゃないが、今日も一日の疲れをとるため風呂に入っていた時だった。
 この宿は、主に大きな風呂場しかないようで、普通は個別の部屋に付いているものだ。しかし、男湯と女湯に別れた造りになっており、大浴場が楽しめるといった趣だ。

 国定が顔の半分を湯船に顔を浸していると、御堂が隣で同じような動作をする。
 真白は風呂の椅子に座り、霧也が後ろでせっせと背中を流してあげている最中だった。

 げに美しき主従関係かな。と御堂が思っているところで国定がプハーッと顔を水中からあげる。

「だめだ。息ができん」

 次いで御堂が同じ動作をすると「俺の勝ちね」とほくそ笑んでいる。

「てめぇ、勝負のつもりだったのかよッ!!くっそーッ!!お前にだけは絶対負けねぇぞッ!!」

 こうなれば意地の張り合いみたいなもので、御堂と一緒にせーので今度はお湯に顔を全部浸す。
 どっちかが先に上がった方が負けのようだ。そんな二人の光景に呆れ返っているのが真白だ。

「ったく、のぼせて倒れたって知らないんだからッ!」

「まぁまぁ。良い雰囲気になってきて良かったんじゃないのか?あれだけ暗い話の続いた後だ。こういう休息も時には必要だ」

 落ち着いた声色で話る霧也は、目を細めて微笑む。

「子供くさいよね全くッ!」

 そう言う真白に「俺たちもやってみるか?」と冗談で霧也が返せば「誰がやるかッ!馬鹿馬鹿しいッ!」とムキになった反応を示す。

「大体、霧也には敵わないんだからやるだけ無駄なのッ!」

「そんなもの、やってみなければ分からないだろう?」

 と言えば、むくれたように頬を膨らませてプイッとそっぽをむいてしまう。

――やれやれ、手のかかるマスターだ。

 霧也が心の中でそう想っているうちに御堂が湯船から顔を上げて「国定ッ!!」と叫んでいた。
 一体どうしたものかと駆けつけると、溺れていたようで急いで身体ごと引き上げる。
 
 真白も何事かと思い、後から霧也の後を追うと、風呂場の床で倒れている国定を見つける。

「だから、餓鬼みたいなことはすんなってゆうのッ!自業自得ッ!!」

 両腕を組んで、上から見下ろす形の真白に、御堂は躊躇いもなく――国定の唇と自身の唇を重ね合わせた。
 人工呼吸だと理解してはいるが、突拍子もない行動にただただ二人は圧倒された。

 いきなり同性にキスするとか、本気で好きなんだな。と感心してる間に、御堂が心臓マッサージと口に酸素を送り込む動作を繰り返している。
 そうしてゴホゴホと咳き込んで、国定は意識を取り戻した。

「あれ、御堂……?」

 自分の至近距離に御堂の顔があって、今にも泣き出しそうにしていた。
 そうして、訳も分からず――唇と唇を重ね合わされた。国定は自分がまだ起き上がって間もないうちに突然キスされて抵抗しようとしたが、力が上手く入らない。
 
 仕方がないので御堂の気の済むままにさせていたら、ようやく離れてくれた。

「心配したんだよ……ッ!!いくら勝負だからって意固地になるなよ馬鹿野郎ッ!!」

「あのー、邪魔みたいだし、僕ら先に上がってるから」

 真白が告げると、霧也も黙って従うように後ろから着いて来る。
 そうしてお風呂場に二人だけが取り残されると、御堂は涙目で国定を抱きしめてきた。

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あきゅろす。
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