アーザの火
7
そこに映し出されていたのはまたも同じ研究施設だった。
緋眼の死神の姿はなかったが、黒翼と白翼もメイオも同じように培養ポッドの中で閉じ込められていた。
白衣に身を包んだ研究者達が何やら言い合っている。
「白翼と黒翼を禁じられた魔科学の力でメイオに生まれ変われせるんだもんなぁ。あの方の計画には恐れ入るね」
「黒翼にはそもそも卵子も精子も存在しなくなってしまった生命体だしな。木から実を結び生まれるなんてとんだおとぎ話にも程がある」
「だが、そんな黒翼と白翼の命を魔科学で合体させられれば、メイオが生まれる。不思議なモノだ」
培養ポッドで眠っていたのは、幼き頃の中年のメイオだった。見た目こそ白い翼だが、力を発揮すると虹色に変化する。
死の直前まで追いやられた生命体をも回復させる脅威の力。そんな禁断の力は魔法封じも出来る。そして、白翼の銃や兵器をも溶かしつくしてしまう。
まさに戦争を無くせる唯一の手段だ。
と、ここまで分かったところで御堂の意識は現在へと引き戻された。
額に手を当てて、ガクリとその場にしゃがみ込んだ御堂に、国定が心配して声をかける。
「おいッ!!大丈夫か??一体何が視えた?!」
「あぁ、大丈夫だよ。黒翼と白翼の命を用い、メイオが魔科学の力で生まれるところまで分かった」
悪い夢でも見ているかのように、汗を額に滲ませながら御堂は話を続ける。
「メイオはとんでもない生命体ってところだね。魔法封じも回復も出来る。そして――兵器すら溶かしつくしてしまうらしいよ」
それは真白以外全員が知らない事実だった。雲母も声をあげる。
「えぇ?!真白さんやそこの方は……つまりメイオという種族なんですかぁ?!!」
今更な気もするが、彼女と霧也には何の説明もしていなかったため、メイオという生物がどれだけ貴重な存在なのかも思い知らされた。
「そうか。俺のマスターは普通とは違うというところだな。まぁそれでも、奴隷の俺にとっては主は変わらないがな」
柔らかい笑みを浮かべて、霧也は真白を見据える。
「霧也……詳しい説明したくなかったのは、君に奇異な目で見られたくなかったからだ。こんな僕でもマスターと呼んでくれる??」
真白はバツが悪そうに横を向いたが、関係ないといった具合で霧也は応じる。
「あぁ。俺のマスターは真白だ」
「なら……良かった」
穏やかな雰囲気の二人の間に、割って入るように国定が声をかける。
「良いムードの中悪いがな、さっさと塗料とやらを羽に塗るぞ。こんなところに長く留まっていたら追っ手に見つかりかねん」
「そうですぅ。ところで、何故追われるとか言っているのでしょうかぁ?私にはイマイチ分からなくて……」
チッと舌打ちをして国定は状況を雲母に説明した。その間、霧也と御堂で真白の羽に塗料を塗って黒く染め上げる。
「俺は軍の重要なモルモットであった真白を連れ出し、今も逃亡中の身だ。御堂も黙って軍を出てきたんだろ?どうせ。で、メイオが生産され続けているルーア・ルースに往くことが目的だ」
手を休めることなく御堂も相槌をうつ。
「そうだねぇ……。で、霧也は片翼になった真白を支えるための白翼の奴隷なんだろ?その身なりで一発で分かったよ」
中年のメイオに柄を返却すると、迷惑そうに一行を見つめていた。
同胞に会えたのは嬉しかったのだろうが、早く出て行って欲しそうにしている。
雲母も国定や御堂の説明でようやく状況を把握できたようだ。
「わかりましたぁッ!私はこれからも御堂に従うだけですぅッ!ありがとうございました、国定さんッ!」
「別に礼を言われる事をした覚えはない」
そっけなくプイッと横を向いて、国定は不機嫌なまま腕を組んでいた。
御堂は呆れたのかどうなのかは定かではないが、そんな様子にただ困ったように笑っていた。
塗料を塗り終えると、今度は国定が風魔法を発動して羽を乾かしている。
その間に他のメンバーは町に出て、身なりを整えるため買い物にやってきていた。
霧也がまず奴隷としか見えない格好だったからだ。
真白はまだ女性用の服を着用していたが、雲母はワンピース姿にエプロンといった田舎娘の格好をしていた。
荷物もろくに持ってきていないまま雲母も旅立ってきたので、それぞれの服を一式買うことにしたのだ。
ちなみに御堂と国定の払い持ちだが。二人もろくな私服ではなかったため、目立たない服を買い求めに市場までやってきた。
真白のリクエストは女性に見えれば何でも良いそうだ。で、国定も特に指定はしてこなかった。
羽を乾かしている二人の分まで服屋で物色していると、霧也は遠慮してか自分には服などいらないと言ってきた。
「俺は奴隷なんだからそのままで良いだろ」
これにはすかさず御堂も雲母も声を大にしてあげる。
「駄目だよ。奴隷ってだけで目立つんだからさッ!」
「ですぅッ!!きちんとした格好にしましょうねッ!」
「はぁ……」
霧也がため息を吐くと、そのまま半ば強引に身なりを整えられた。
戦士に見えるようなどこかの冒険者のようないでたちで霧也が服を着替え終えると、ぱちぱちと雲母が拍手をした。
「やはりこの方がしっくりきますですぅッ!」
雲母に至っては回復魔法でも使えそうな僧侶のイメージで整えられ、基本的にテーマは冒険者一味という肩書きだ。
国定は身軽な盗賊スタイルに、御堂は魔導師風な格好、真白に至っては踊り子の格好で用意させた。
「踊り子風な感じだと逆に目立ちませんかぁ?」
真白の服だけ派手な感じの踊り子衣装に、雲母は疑問を投げかける。
「本人が女性に見えれば何でも良いっていってたし、この方が逆に片翼に目がいきにくいかなってさ」
御堂がそう言うと、霧也は何でも良さそうに同意した。
「気に入るかは別だがな。まぁ、似合いそうといえば似合いそうだ」
楽しい買い物中だったが、人ごみの中に軍服を着た白翼が紛れていた。おそらく、真白を追っているのだろう。
下っ端兵が町の市民に声をかけて情報を探っている中、御堂と霧也は雲母を連れて路地裏まで逃げてきた。
そのまま、あの中年のメイオの家までたどり着くと、完全に塗料が乾いていた真白と国定が出迎えた。
「よう。遅かったじゃねぇか。こっちなんかとっくに作業終わってたぜ」
「で?良い服はあった??」
二人に趣旨のテーマを告げ、旅の冒険者一行に見えるように仕立てたというと、どうやら国定だけは納得したようだった。
真白だけは不服そうに文句を言ってくる。
「僕の格好、露出多くない?胸にシリコンパッド入れないと女に見えなくないかッ!?」
「そ、そんな事ないですぅッ!!片翼だと目立つから余計に目立つ格好にしてみた……とのことですよねぇ??」
雲母がうらやましそうに真白を見つめていた。それもそうだろう。姿形は女性より女性っぽいのだから。
胸などぺたんこな雲母からすると、胸がなくとも、真白がより一層輝いて見える。憧れさえ抱いてしまうほどに。
「うん……まぁ、胸がなくとも間違いなく女に見えるな、マスターは」
髪の毛が長いことも手伝って余計そう見えるんだろう。悪気はない霧也に褒められて少しは機嫌を良くしたのか、真白は黙って着替え始めた。
次いで国定も服を着替える。盗賊風な身軽さを感じる格好に、チャマの仲間たちとよく窃盗を繰り返した日々を思い出す。
そういえば皆は何処で何をしているのだろうか?と考えていると、御堂から重要な情報を聞くことになる。
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