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アーザの火
4
 翌朝、フルタ島まで引き返すと、そこには二等兵の軍人たちが状況証拠を探っているようだった。
 国定たちの足取りを徹底的に探すつもりなんだろう。しかし所詮二等兵だけの新米兵士たちに負ける筈もないが。

 真白の屋敷までは全速力でも二日はかかるので、フルタ島ではない近くの孤島に身を潜める事にした。
 無駄な戦闘はさけるべきだと国定は考えたからだ。その意見には皆が賛同してくれて、僅かながらに団結力へと繋がった。

 そうして、兵の目を掻い潜り真白の屋敷付近まで引き返した時には、あちこちに軍の二等兵や一等兵があたりを囲んでいたのだ。
 おそらく戻ってくることを予期した行動なのだろうか?それにしては、雑魚ばかり配置されていて元帥以上のクラスの黒翼はいなかった。
 
 国定はひとまず胸を撫で下ろすと、御堂に目配せした。御堂は御堂で、近くにある木々に魔力を注いでいる。
 真白と霧也にはとりあえず待機してもらい、二人は一気に地面を蹴り上げた。

「なッ?!国定大将と御堂中将ッ?!!」

 二等兵の一人が気づいて声を上げた途端、御堂が洗脳で操った木々が生命を持って兵士たちに襲い掛かる。

「ひぃいいいいッ!!!嫌だぁぁあああああッ!!」

 枝を振り翳して、また一人また一人と振り払い、なぎ倒してゆく。国定は風魔法で敵の首元を掻っ切ると、次々にその場にいた兵士たちは大人しくなった。

 御堂の命令で動いていた木々たちは最後にバタンと覆いかぶさるように敵を潰す。
 がさがさと葉が揺れる振動とそれなりの巨木が倒れたのだから、敵の意識はないだろう。

「いやぁッ…怖い怖い」

 傍目から見ていた真白が一息もらすと、霧也は感嘆する。

「やはり元大将と元中将はすごいな」

 褒められても、元同胞を殺した事実に変わりは無く、胸糞悪い気分に二人はなっていた。

「……さっさと屋敷内にいくぞ」

 国定が冷たく吐き捨てると、三人は押し黙って後をついてゆく。
 ボロボロの扉の中に入り柄を手分けして探していたら――髪も目もどこもかしこも白く、翼は黒い裁判官の一人である行雲が奥の部屋からつかつかと歩み寄ってきた。

――まずい。まさか裁判官クラスの敵がいるとは露にも思わなかった国定と御堂は互いに冷や汗をかく。
 いくら親しかったとはいえ、『お前を死なせない』と言った相手であろうとも、国定にとっては最早敵でしかない。

 最悪のケースを頭に想定しながら、距離をとりつつ様子を伺っていると、行雲の方から話しかけてきた。

「よう。逃亡者ども。何で戻ってきた?」

「……お前に話す理由はねぇ」

 国定が最悪真白だけでも逃げられるように霧也に目配せすると、霧也も意図を感じ取ったのか、真白を両腕で抱えた。
 最悪ここで死んでも真白だけは逃がさねぇとと国定が思案している時だった。

「イーリスの柄か?ほれ、やるよ」

 そう言って床をすべるように柄だけがコツンと国定の足元に転がってくる。

「……どういうつもりだッ!!行雲ッ!!」

「そう吼えるなよ。裁判官の間でも派閥があるのは知っているよな?俺とかつぎたちの派閥の願いは、ルーア・ルースを見つける事だ。お前らなら成し遂げられる可能性がある。だから、頼む」

「引退した元・大元帥の奴らや現役の大元帥、それに他の裁判官共が黙っちゃいねぇぞッ!!」

 両の拳を握り締め、国定は大きく行雲に向かって叫ぶ。
 だが、行雲は静かに口を開いた。

「なぁ、国定。何故メイオが生まれ、俺たちでさえ分からないルーア・ルースを求めると思う?そこにしか緋眼の死神がいないからだ」

 かつて、黒白大戦を終戦させた伝説の英雄である白翼。今も尚、白翼たちの神に等しき存在。
 どこかで生きているとは知っていたが、まさかルーア・ルースにいるとは……。驚きを隠せない国定は、何故行雲がそれを周知していたのかに着目する。

「どうしてそう言いきれるッ?!大体お前らは俺たちを使って何を企んでやがるッ!!緋眼の死神をどうするつもりだッ!!」

「そこまでは言えない。が、やるしか他にお前らが生き残る事は無理だな。軍が総動員すればあっけなくカタもつく。それに、俺がこの場で全員殺してもいいんだぜ?」
 
 国定は踵を強く踏みつける。御堂にも苛立ちが伝わり、真白たちに至っては焦りが生まれていた。

「くそッ!!結局お前らの掌の上で踊らされているだけじゃねぇかッ!!畜生ッ!!」

 地団太を踏むと、足元に転がっていたイーリスの柄を御堂に手渡した。

「御堂、もう行雲の言うとおりにするしか他に選択肢がねぇようだな……ははッ、何が軍に喧嘩を売るだ」

「国定……ッ」

 ただうな垂れながら、柄を手にすると――記憶の一部が御堂の頭の中に蘇ってくる。
 そこは見たことも無い研究施設で、確かに歴史書よりかは若い緋眼の死神が黒翼と白翼の研究者にせわしなく指示をだしていた。

『イーリスの柄はまだできないのか?!』

『申し訳ありませんッ!!このメイオもまだ未完成でして……』

 培養ポッドの中で、メイオの真白の幼い姿が目に飛び込んでくる。
 御堂はもっと記憶を読み取れないかと必死になって集中したが、これ以上先の映像が頭に映しだされることはなかった。

 現実に引き戻されると、御堂は落胆した。これでは、ルーア・ルースが何処にあるのかまでは特定出来ないからだ。
 
「行雲様、俺が見えたのは訳も分からない見覚えの無い研究施設に、若き緋眼の死神が研究者に指示をだしていたところまでです」

 行雲もこの言葉を聞いて、がっくりと肩を落としていた。

「はぁ?それだけかよ……。もっと有益な情報じゃねぇとお前ら殺すぞ」

 奥歯をかみ締め、腕組みをしていた行雲に国定はわざとおどけてみせた。

「俺の命だけは守ってくれるんじゃなかったのか?あれは嘘だったのか?」

「てめぇ、自分だけ助かりたいとか考えてる口かぁ?まぁ、国定は殺さないにせよあれだな。情報が少なすぎる」

 今まで恐怖もあり、押し黙っていた真白がおずおずと進言する。

「各地にいるメイオが持つイーリスの柄から記憶が呼び起こせるかもしれない……ッ!メイオである事が一目で分かるのは同じメイオ同士だ。だから僕らを殺すのはまだ早いんじゃないかな?ねぇ、そこのお偉い様」

 本当は今すぐにでも霧也に飛び去ってもらい、逃げ出してしまいたくなる衝動を抑えながらも必死で行雲に目で訴えかけた。
 すると……。

「分かった分かった。んじゃそうしてもらうっきゃないなぁ。ルーア・ルースにいる緋眼の死神を見つけださねぇとだし。俺も極力は協力してやる」

 長い白銀の髪をなびかせて、用は済んだとばかりに古城へと戻ろうとした行雲の前に真白は立ちはだかり遮った。

「待ってッ!!元在さんが何処にもいなかった……ッ!!これもあんたたち軍の仕業なの?!」

「元在さん?あぁ、国定の馬鹿を治療したメイオか」

 頭をぽりぽりと掻き、盛大なあくびをしてさもつまらなさそうに行雲は話す。
 ここで否定して本当は治療したのは自分だと、真白は何故かいう気になれなかった。

「……ッ!!家に確認にいったらもぬけのからだったッ!!元在さんは軍に捕まったのッ!?」

「耳障りだから喚くな。研究施設の人間もどっかの馬鹿が皆殺しにしたし、軍にメイオはいないぜ?」

「じゃあ……どうして……ッ」

「答えようがない。じゃあな。有益な情報期待してるぜ」

 そう言うと足音だけが遠ざかっていった。


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あきゅろす。
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