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アーザの火
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 とりあえず、森小屋を飛び立ったは良いが、真白を抱きかかえながらではどうしても飛行速度が落ちる。
 そこで、近くにある大都市で奴隷市場で奴隷を1人買う事にした。不名誉除隊で退職金すら支給されなかったが、奴隷を買う金ぐらいは持ち合わせている。

 特に屈強で、真白を抱きかかえても飛行速度が落ちない白翼の奴隷をさがしていた。何故白翼かは、こちらの方が体力もあるからだ。
 つまり、肉体労働に圧倒的に向いているのだ。黒翼の奴隷も探せばいないこともないが、魔法戦ならば国定の方が圧倒的に強い。元・大将の地位を舐めてもらっては困る。

 まずは片翼である真白の身なりを整えさせ、翼がすっぽり隠れるほどのローブを買う。自身も、あまり目立たぬような灰色のローブと服一式を買い揃えた。
 次に奴隷市場へ向かい、そこで屈強な白翼を見つける。店の店主が『こいつはガタイの良さだけがウリですよッ!!娼妓の方はてんで駄目ですがね、如何です?』と声を張り上げている。

 国定と真白は鍛え上げられた上半身と筋肉美に見惚れ、この男ならばと早速店主と交渉をする。

「おい。この白翼の男、飛行速度は速い方か?」

 尋ねられた店主は、愛想良く答える。

「ええ。なんせ筋肉ダルマで、それしか取り柄がありませんので、とても速いですよ。娼妓の方では全く期待できませんがね。中々無愛想でして、少々飼い慣らすのに苦労されると思いますから、お安くしときますよ」

 ニコニコと必死で売りつけてくる店主の傍らで、確かに白翼の男は無愛想にこちらを眺めていた。
 なるほど、それで今まで買い手が現れなかったというわけか。隣にいた真白は白翼の奴隷に駆け寄ると、ぺたぺたと裸の上半身を無遠慮に触り出す。

「格好良い。どうやったらこんな風に綺麗に筋肉がつくのかなぁ」

 と無邪気に子供のような一面を覗かせている。今まで気の強い一面しか目の当たりにしなかったからか、意外そうに国定は瞳を細めた。
 

「……ベタベタと随分遠慮のないご主人だ。俺が怖くないのか?」

 やはり、不機嫌な形相を隠しもせずにおおっぴらにするあたり、気の弱い主人なら裸足で逃げ出すのだろう。
 しかし真白は全く意にも介しておらず、挙句こんな言葉を口にする。

「へ?何で怖いの?格好良いじゃんッ!!それに、実は凄く優しそうだよ君ッ!!」

 太陽みたいな笑顔で朗らかに真白が笑えば、奴隷の男は毒気を抜かれている。国定は店主へスムーズに支払いを済ませ、奴隷を1人買い上げた。
 

「お前の主は真白だ。情けない話、いざという時に俺ではこいつを抱きかかえたまま逃げきれる自信がない」

「……どういうことだ」

 奴隷が問いただすと、国定も今までの経緯と事情を説明する。納得した様子で、奴隷の男は頷いた。

「なるほどな。軍に追われているのか。これはまた、えらいご主人様に当たったな」

「……人の事言えた義理じゃねぇが、仮にも俺達はお前の飼い主だ。まず、敬う努力ぐらいはしろ」

「でも、別に僕はこの方が彼らしくて好きだけど?」

 と天然なのか、一気に奴隷と国定の間に流れる険悪なムードをぶち壊すかのように真白は語りかける。
 だが、奴隷は国定の言葉が勘に触ったのか、牽制の意志を崩そうとはしない。

「ならば、力を示せ。そして俺を屈服させてみろ」

 言うが否や、国定は風魔法を頬の横へすり抜けさせ、奴隷の後ろにあった大木がバタンッと音を立てて崩れ落ちた。
 

「……風魔法の使い手か。発動が早いわけだ」

 若干額から冷や汗が吹き出た奴隷は、国定がまだ手を前方に翳したままの大勢から、腰に下げていたナイフを手首の裏側に突きつける。
 至近距離にいたとはいえ、江月よりも速く、動体視力で追いきれなかった。

「……俺は魔法など使えずとも、黒翼が魔法を発動する前に腕ごと切り落とせる」

 店主の言っていた意味がようやく理解できた。この奴隷は、あくまで自分より強い相手にしか服従しないのだ。
 互いの力量が推し量れたところで、真白がまたも空気を読まない行動に移る。


「ほらほら、握手して。喧嘩両成敗っていうじゃん?」


 まだ話は終わってはいないのだが、うやむやにするように強制的に互いは握手を交わした。
 

「俺の名前は霧也だ。よろしくマスター」

 先ほどよりかは、幾分か雰囲気が柔らかくなった霧也は、こうして国定達の仲間に加わった。
 

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あきゅろす。
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