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アーザの火
5

 橙色の空に浮かぶ雲は灰色に染まり、日没まで残り僅かとなっていた。

 国定は部下の黒翼と共に、魔女と称される女が住む郊外の館に到着する。


 建物には無数の蔦が絡まり、窓も全面覆われていて傍からみれば幽霊屋敷のようにしか見えない。

「大将、本当にこんなオンボロ屋敷に女なんていますかね?」

 部下の1人がそう言えば他の部下も口を揃えて頷く。

 蔦に手を当て魔力を流し込み、蔦越しに中の人がいるかどうか確かめていた部下の1人――御堂は言う。

「間違いなく中に誰かはいるけど、本当に黒翼の女なのか…?魔力の波動を全く感じないが」

 部下の中でも1番信頼に置ける御堂の言葉が嘘だとは思えない。
 確かに黒翼の“魔女”を生け捕りにする命令だと聞いていた筈であるが…

 情報伝達の齟齬とも結びつかなかった。

 何から何までキナ臭いときていて、溜息を吐けば息が白く濁る。
 日はすっかり沈み外は段々と寒くなってきていた。




「なぁ、国定。黒翼で魔力を一切持たない者なんているのか。それとも単に白翼だっただけなのか?」

 御堂だけは国定に対して敬語を使用しない。
 好きにさせているだけであるが……御堂に関しては戦友といった方がしっくりきてしまう。自分の部下だというのに。

「黒翼で魔法が使えない奴なんて聞いた事もないが…情報のミスとも捉えにくい。あのジジィ共が俺を動かしたのには何か重要な理由がある。気ぃ引き締めて捜査するぞ」

 部下全員に号令をかけ、館内へと突入させる。



 難無く第1関門である館への侵入も成功した。

 と同時に、ターゲットである女を苦もなくあっさりと見つけてしまう。

 情報通りやはり羽の色は黒な事から、黒翼であるのは間違いなさそうだ。
 女は1階の中央広間の壁際に寄り掛かかり、静かに佇んでいた。

――まるで国定達が来訪するのを、あたかも待っていたかのように。


 自分を取り囲む軍人達にようやく視線を向けるも、全く動じる様子はない。

 流石に魔女と噂されるだけはある。
 この状況に眉一つ動かさない度胸も大したものだが、何より魔性の女の色香が全身に漂っていた。

 羽の色に合わせた漆黒のドレスは雪の如く白い肌に良く対比して映え、小さくもふっくらした唇は果実のように赤い。
 二重の瞳はブルーサファイアのような色合を醸しだしている。肩まで伸びた真っ直ぐな栗色の髪は触れれば、きっと指通りも滑らかだろう。
 どこをとっても他の女が裸足で逃げ出す程に麗しく艶めかしい輝きを一際放っていた。

 魅とれている場合ではないのだが、つい目が離せなくなる。
 部下の様子はもっと酷く惚けている者までいたが、構っている時間も無駄なので迅速に任務を全うするために本題へ入る。


「裁判所の者だ。お前が夜な夜な禁止されている、科学や機械の生成をしているとの噂があって調査にきた。尚、お前の身柄は拘束し古城にも一緒に来てもらう」

 声を一段と張り上げれば、女に現を抜かしていた部下も慌てて任務を思い出したのか、証拠となる科学薬品や機械生成に使われた道具などの痕跡も調べ始める。


「家の中にまで蔦が入り込んでるのか…?」

 御堂が何気なく全体を見渡すと外壁だけでなく室内の天井や家具にまで蔦が絡みついていた。
 内も外も、そこかしこに蔦が生えた無法地帯となっている状況に驚きを隠せない。

 不思議そうに首を傾げるもさっきのように蔦に触れ、魔力を流して調査を進める。

 御堂の魔法は情報収集にはうってつけで、植物や静止した物などに手を当て魔力を流す事で物を意のままに操れたり、記憶を感じ取る事ができる。



 その力を用い、1人の青年の姿を2人で見届けた“あの日”を決して忘れはしないだろう――




 

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あきゅろす。
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