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アーザの火
3

「魔女だと……?」

 内海から聞いた話によれば、宙に浮いた島の古城から5km離れた場所に黒翼が数多く住む大都市があり、さらに西に離れた郊外の館で魔女と呼ばれる黒翼の女が3ヶ月前から住んでいるらしい。

 最初は誰も女の存在など気にしなかったが、問題なのはその館から夜な夜な奇妙な音が聞こえるという。
 その奇妙な音というのが、今は禁止された科学や機械の生成音ではないかとの噂が絶えない。
 とは言っても、噂はあくまで噂でしかないのだが、こうして古城にまで情報が入った以上、確認しなければいけないのは明白だった。

 軍でさえ機械の類は下っ端兵士の白翼に銃の所持を認可しているのみで、一般市民が所持すれば罪に問われ裁きの対象となる。
 例えば、生まれもって身分の高い王族等であれど、機械や科学の類いを生み出す行為は固く禁止されていて、白翼の場合は即刻古城に連れて行かれ打ち首に。
 黒翼の場合は打ち首とまではいかなくても一生古城に幽閉される程の重罪に当たるが、そもそも黒翼でそんな酔狂をする馬鹿はいない。
 何故なら白翼は基本的に魔法を使えず、魔力も無い。白翼が黒翼に勝る点は、元来持つ知能の高さを生かした技術の結晶である機械や科学といったもの。
 これらが俗に白翼の得意分野で、逆に黒翼には苦手で難しいものだとされる。

 そして、それらの類が実は黒翼にとっては非常に都合が悪い。

――自然を破壊するだけでなく、マナの供給を途絶えさせてしまうから。
 マナは黒翼のみが魔法を使うために体内に貯めるエネルギーの呼び名で、自然豊かな場所であればある程その恩恵を受けれられる。
 体内のマナが枯渇すれば、当然魔法は放てないし、補給源の自然破壊は黒翼にとって許し難い悪魔の所業なのは、黒翼体勢になる以前から変わっていない。

 黒翼のみがこうした“魔法”を扱え、白翼には使用出来ないのか……様々な憶測はあるがハッキリとした説はないまま今にいたる。
 けれど、黒翼の大多数の人々は深く考えようとはしなかった。
 ただ単純に、自分たちに授かった神秘の力として、白翼には得られない格差に誇りと優越を持つだけだ。

 今回も軍兼用の育成機関としても存在している古城から命令が容赦なく下った。
 上からの命を上司兼幼なじみであり腐れ縁の内海を通して。

 だからと納得するのも億劫な程、公私に渡り国定はいつも内海から頼まれ事を引き受けていた。
 まぁそんなのは今はどうでもいいんだが……上層部からの任務に関しては、どこか腑に落ちぬ疑問符ばかりがぐるぐると頭に浮かんでくる。


「何故直々に俺に命令がきた?たかだか黒翼の女一人を捕まえるぐらいで、大将である俺を動かすとは……ジジィ共は何考えてやがる」

 内海も大きく頷き、頭を抱えている。

「それはわいも1番知りたいところやで。ジジィ共に問いただしてもシラを通すだけの狸やったし。ただ、その魔女が胡散臭くて怪しいってのだけはよう分かるで」

 胡散臭いのは内海に言われるまでもなく百も承知だが、上層部の御託には付き合いきれない。
 言われた通りの任務をこなすだけでいいのだと思っていた。

「で?出立はいつだ」


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あきゅろす。
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