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アーザの火
9
――古城に到着すると、1人の白翼の男が門から少し離れた位置で待ち構えていた。
 他に2名の門番とおぼしき黒翼の兵もいるが、彼らは軍服に身を包み厳粛に警備にあたっているようだ。

 一方、白翼の男はというと……見たこともないような軽装だが、金の刺繍や赤を基調としたどこか絢爛な民族衣装のような出で立ちで、腰には短剣をぶら下げていた。
 白翼の兵なら銃の所持が当たり前だが、男の武器は短剣のみだった。こう言ってはなんだが、とても軍の兵士とは思えない。

 驚く程、全体的に色素が薄く、つり目で中性的な容姿は隙がなくつかみどころのない印象を人に与える。
 男は内海の姿を確認すると、途端に顔をほころばせて、側に駆け寄り抱きついた。

「うつみ…ッ!おかえりなさい!」

「ただいま、江。ちゃーんと良い子で留守番しとったか?」

 真白は面識がないので国定に「誰?」と訊く。

「江月(こうげつ)。内海の副官だ」

 国定が短く簡潔に答えると、一瞬江月に睨まれた。真白にというよりは、国定に対して敵意をむきだしているかのようだ。
 見た目は洗練され、綺麗な成人男性なのに、随分舌っ足らずに喋っている。白翼の身分でよく副官になれたものだ。白翼は一生二等兵、よくて一等兵止まりなのに。

 江月は内海に頭を撫でられ、嬉しそうに目を細めていた。
 少し離れた場所から2人で楽しそうに会話している。

 副官らしからぬあどけなさに堪らず目を丸くしていると、部下が江月について詳しく補足してくれた。

「江月さんは、白翼の奴隷市場の出身なんですよ。違法な営業で有名な市場でしたので、取り締まる名目で武力行使に踏み切りました。
再三にわたる忠告も無視し、営業を続けていましたから。その際に内海元帥が一目で気に入ったようでして。以来、ずっと側に仕えさせていたそうです。
内海元帥が元帥になる何年も前の話ですがね」

 すると真白は、部下の言葉を遮るように論破する。

「それって、法制度ができたからでしょ?“緋眼の死神”があんたら軍や古城もつくらなかったら、いつまでも野放しだったじゃないか。
大体、奴隷市場自体が今もありふれているし、白翼の存在自体が既に“奴隷”だろ?」

 痛いところを突かれると、部下はばつが悪いのか靴のかかとで地面を摩った。
 それを見かねて、国定がフォローをいれる。

「こいつに言っても仕方がないだろう。白翼も昔は黒翼を“奴隷”として使役していたんだ。
伝染病が蔓延しなけりゃ、体制は変わらなかった。要は立場が逆になっただけの話だ。
これはある意味、当然の結果で報いだろうがな」

「……先祖の白翼と現在の白翼を混同してない?やられたからやり返すってのは、憎しみの連鎖しか生まないよ。
あんた達から言わせたら、これは偽善で綺麗事かい?」

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