アーザの火
8
「あ、内海元帥!……それに、国定大将ッ!?もう起き上がっても平気なんですか!?」
しばらく外で待たせていた部下に内海と国定は一声かける。
「俺は大丈夫だ。心配かけさせたな」
「この馬鹿の生命力はさすがやで!御堂も心配やし、急ぎ古城に戻るで」
いつもの軽口で、出立を口にする内海の様子が一段と暗く、纏う空気が重苦しいのを部下は見逃さなかった。
注視すると、国定の顔色は良く、嘘のように回復は早いようだが、やはり全体的に雰囲気は沈んでいる。中で何かあったのだろうか?
部下は、国定の無事を内海同様喜ぶも、どこかすっきりしない心持ちになる。
2人の後に続いて真白が姿を表した。手足を拘束されておらず、そのまま古城まで連れて行くのは明らかに不味いので、部下は2人に進言する。
「そちらの罪人は、今度はきちんと拘束して連行せねばなりませんよ?」
罪人…軍に逆らったのだからそうなるのかと、真白は心の中で冷笑する。
捕まらずに逃げおおせられれば一番良かったが、真白の母親である灰音が3ヶ月前に亡くなった。
元在の世話を、灰音から後を引き継ぐ形で、母が暮らしていた館に真白は移り住んだのだ。
合成獣などを生み出す錬金術を密かに行ってはいたが、屋敷外に大きく漏れるような音を出していた訳でもない。
都市から離れ、幽霊屋敷のような家に近づく人はいないし、一体どこから漏洩したのか。
軍に情報を流した密告者は、必ずどこかにいる。が、今考えても迷宮入りするだけだった。
罪状の建前は機械の生成らしいが“メイオ”だから捕まった可能性の方が高い。
では何故真白は“メイオ”だと知られ、元在は“メイオ”だと軍に気づかれなかった?
唯一真白が黒翼でも白翼でもない『メイオ』である事実を知っているのは元在だけだが、軍に売った…とは信じ難い。
――駄目、肉親同然の人を疑うなんて
真白は邪な考えを振り払うように、首を横に振った。
それに、さっき真白をかばい、自ら生贄になるとまで言って涙を流してくれた人だ。
違うに決まっている。
国定達は、命じた者から教えられずに、魔女を捕えろとだけ言われたのだろう。
でなければ、トラップにああも簡単に引っかかったりはしない。
“メイオ”の魔法封じに――
隠れ潜むように生活していたのは元在だけではない。
大陸を渡り、あちこちを転々としていた真白もまた、自分を偽って黒翼として生きていた。
軍の人間が近いうちに屋敷へ来ることを、真白は重々承知していた。
都市に買い物に行った際、たまたま道端で女性達の小話を耳にして、屋敷や自分が魔女だと噂されていたのを知りながら、敢えて屋敷に残る選択をした。
2人で逃亡する道もあったが、元在は頑なにあの家を離れようとはしなかったであろう。
そうするぐらいなら、自ら軍に赴くような性格の人だ。
これは、元在を見捨られなかった甘さが招いた結果なのだろうか と真白は心にわだかまりを残す。
――元在さんを見捨てて一人で逃げたくもなかった。ただ、静かに暮らしていたかっただけなのに、それすら許されなかった。
真白は一歩前へ出ると、進んで両手を差し出した。
「どうぞ。腕でも足でも拘束して連れていけばいいよ」
皮肉混じりに諦めて言う真白を見て、内海は罪悪感から何も言えなくなる。
国定も詳しい事情はよく分からずとも、元在と真白の涙を流した抱擁をみて、軍に対し含むところがあるのだろう。
押し黙る2人の代わりに、部下が真白の両手を拘束すると、4人は森小屋から一斉に飛び立った。
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