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アーザの火
7
 高齢になればなるほど、個人差はあるが、髪は抜けやすくなる。羽根の場合は高齢だろうと、髪に比べ特別抜けやすい訳ではない。

 ここでは、空を飛ぶ唯一の手段、翼を…片翼でも失えば、すなわち障害者とみなされる。障害者への風当たりは強い。

 蔑まれ、中には異端だと激しい非難の的となる。弱者には住みにくい思想の根幹で、これが現実だ。
 元在は片翼ではないにしろ、隙間だらけの翼では街中を歩く事さえ難しいのだろう。過激派の連中なら、障害のある元在を目にしただけで殺しかねない。
 

 どうりで、隠れ潜むように暮らさざるを得なかったのか。
 しかし、飛べもしない翼で、こんな辺鄙な場所で暮らしていて、よく今まで死なずにいたな。
 おそらく、真白が街から食料などの物資を調達し、届けていたに違いない。

「お嬢ちゃんにどう言われても、わしは今の自分にできることをするだけじゃ。結局、人の性とはそういうもんじゃからなぁ」

「僕は……ッ!貴方に、一日でも長く生きていて欲しいんだッ!!これ以上、同胞が…死ぬところはみたくないッ!!」
 
 縋り付くように、真白は元在の胸に顔を埋める。元在はやんわりと真白を払いのけて

「……死は誰にでも訪れる最大の平等じゃ。なぁに、わしのことは心配要らん。これが今生の別れでもないじゃろ」

 静かに諭す。だが、真白の表情は依然として曇ったままだ。

「でも……僕は…軍に捕まりましたよ。これから……奴らのモルモットになります」
 
 居合わせている内海と国定も、複雑な面持ちでいる。元在は薄々感づいていたのだろうが、気持ちが揺さぶられた。
 元在にとって真白は、実の孫のような存在だったからだ。

「そこの若いの、嬢ちゃんではなくわしを連れていけ。無理を承知で頼むッ!嬢ちゃんだけは…見逃してくれ」

 頭を垂れて悲痛に訴えるも、2人はなおも複雑な面持ちを崩さない。重く苦々しい口ぶりで、内海は元在に告げる。

「連行の命令は、そこの女男だけなんや。本人じゃなきゃ、わいらも関わった部下さえ全員死罪や。
じいさんの報告は…上にはせんで見逃すさかい、堪忍してくれや」
 

 大きく項垂れた元在は、やり場のない怒りに拳を震わせていた。

「左様か……こんな老耄では、生贄にすらなれぬのじゃな。わしの力及ばず、申し訳ない」

 真白と元在は涙を流しながら、互いに抱擁する。

「謝らないで…下さいッ!元在さんは…僕にとって、この世にいる最後の肉親も同然なんです!
元在さんこそ、どうか…生きて、生きて下さいッ!!」

 内海と国定は2人の情景を――固唾をのんで見守った。

 


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