アーザの火
1
館を出てから5分、男の言う方向に4人が飛行し進んでゆくと……深い緑の木々に阻まれた間に一軒の小屋が見えてきた。
上空からは目を凝らさないと、何か在るのに気が付かない。周囲に馴染む材木で建てられている森小屋の窓からは、室内の淡い光が外にもれていた。
辺りは真っ暗で他に人が住んでいるとは皆目見当がつかない程に、見渡す限りに緑が覆いつくしている。
自然そのものの景色と夜の闇が、自分の居場所さえ分からなくさせる。
翼を閉じた4人は、窓の明かりだけを頼りに一気に急降下して地に降り立った。
国定を抱える内海だけは、身体に衝撃を与えさせないように慎重に降りる。
「随分、辺鄙なとこやな。白翼の医者はおるんか?」
内海が男に対しうたぐり深くなるのも当然だった。
黒翼に比べ国の認可が極端に少ない白翼の医者といえど、開業医なんだと極当たり前に予想していたのに……
いざ来てみれば患者が気軽に来られる場所ではなく、森小屋自体も患者を診れるような間取りも広さも外観からすると全く感じない。
例えるなら、世俗を離れ隠居した人間がひっそりと森で一人暮らしするための環境と住まいといえば的を得ている。
「……国に認可されていない白翼の医者だ。それに今は、よっぽどじゃない限り患者をみなくなった人だ。この場所さえ知る人ぞ知る穴場みたいなもんかな」
男の監視役で同行した部下は、話に耳を傾けると落胆の色を濃くした。
「確かにあの館からここまでの距離が近いのは良いんだが、そいつが大将をきちんと治療できる医者とは到底思えないんですが。こんな隠居暮らしの医者ならどうせじいさんだろう?それとも、ここまできて全てが虚言だったなら……今ここでお前を殺すのになんの躊躇いもないが」
戦闘態勢に入ろうとする部下を内海が制する。
「……やめとけ。それに今は一刻を争う。わいはこの女男を信じてみるわ。虚言かどうかは小屋に入ってから決めても遅くないで」
部下に向けて放った内海の言葉に男の方が反応した。
「さっきからお前だの女男だのって……虚言でもないし、僕は真白っていうんだけど。強いてゆうなら、死ぬ訳にはいかない理由があるからかな。だから協力してるんだよ」
元を辿れば全て真白のせいで、国定も御堂も負傷し仲間2名が死亡したのだと責めたい気持ちを部下も内海も堪えた。
沈黙を暗黙の了解と受け取ったのか、真白は小屋の扉を叩き、家主を呼びだす。
「遅くに失礼します。真白です。突然の来訪に加え、緊急の患者で申し訳ないのですが黒翼を一人治療して貰えませんか?」
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