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アーザの火
9


 軍に志願するというのは……常に自身の墓をも背負わなくてはならないということだ。

 いつ、何処で、誰にも知られぬ死に様だったにせよ……そういうものなんだと、冷徹に割り切るにはまだ未熟で覚悟が足りない若者がクニサダの目の前にいただけだが、どうにも釈然とせず苛立ちと怒りが沸々と湧き上がる。



 国定は覚悟の無い人間と甘ったれた人間がとにかく嫌いで、視界に入るだけでも嫌悪感が増長する。
 年齢は、弟の遺体に縋り付き泣いている青年と差ほど変わらない筈なのに、歳に不釣り合いな程冷静な国定だからこそこう考えるのだろう。

 一般的な思想を持つ大衆にはこのような見方はあまり理解はされないが、死とは常に平等だ。
 物言わぬ死体ともなればそれはただの肉塊と化す。
 赦しも甘えも戦場には一切存在しない。だからこそ、国定は軍人になる道を選んだ。










「それは気の毒だが、軍人になったからには致し方無いな。それとも……慰みや同情を期待したか?」





 思考を巡らせていたのだが、無意識の内に声に耳を傾け一気に現実へと引き戻される。
 今の言葉が目の前のお節介でお人よしだと思っていた野郎の口から発せられたとは俄かに信じ難いが、間違いなく御堂の声だった。

 さっきまで混乱している兵士の背を摩ったり何かと世話をしていた人間にしては、感情の篭らぬ淡々とした口ぶりに驚き、反射的に御堂を二度見してしまう。

 そこには無表情で静かに死んだ遺体を見下ろす姿だけが在った。
 悲しそうに眉尻が下がっている訳でも、嬉しそうに口角が上がっている訳でもない。
 まるで、彫刻のように歪み一つない顔面は、呼吸すらしていないように感じ取れた。



「………。」

 青年はまさかそんな風に言われるとは夢にも思っていなかったのだろう。
 呆気にとられて放心したのもつかの間、御堂の言葉と態度に憤慨し感情をあらわにする。

「肉親が死んだんだぞッ!…そうだよな、アンタからしたら所詮他人だもんな!痛みなんて分かんねぇだろうよッ!!」

 怒りの矛先を白翼から御堂に切り替え、掴みかかろうとするが――









「“弟”さんには白翼の親友がいた」

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