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アーザの火
8
 一瞬、御堂の瞳が大きく開かれたように見えた。
 頭を掻きながら、ポツリポツリと言葉を呟く。

「…操った死体の黒翼はさ皆“軍人”だ。敵を殺す覚悟も自分が殺される覚悟を持って戦場に赴くだろ?
職務を全うした彼らに…俺は鞭打って遺体を操る。罪悪が無い訳がじゃないし、良心は痛むけど

それでも俺に出来る事を精一杯為すだけだ

どんな綺麗事並べるよりも、それは確実な真実になるって信じてる。

だからさ…」


 何処か寂しそうに微笑して

「俺に墓はいらない。遺体すらカケラも残らなくて良いんだ。それが、彼らに対する俺の当たり前な覚悟と誠意って奴」


 だから“軍人”である者以外の死人を操るつもりはないよ、と付け加える。



 国定は御堂の事など何も知らない。むしろ、興味すらなかった。

 けれど今の話を聞いて、最初の印象よりかは好意的にみえるようになる。
 曲がりなりにも覚悟を持つ姿勢には、少なからず共感したから。


――少し似ている。自分と、と心の中で想っては、国定が御堂にそれを伝えはしなかった。

 国定や、後から到着した軍の黒翼の加勢により、御堂は事なきを得る。
 それから小1時間もかからずに、白翼の抵抗というテロの鎮圧も無事に収拾した。



 周囲を見渡すと、白翼や仲間の黒翼の死体の山が築かれていて、到着した黒翼の兵士の中には嘔吐する者までいる始末だ。

 血の錆つく臭いに充てられたのか、しゃがみ込み疼くまって泣き出す者までいる。
 国定は軟弱者だと罵りたくなのを我慢し拳を握りしめた。
 御堂はそんな者達の側に駆け寄っては、背中を摩っていたり、声をかけ気遣い忙しなく動いている。

 臓器が散乱した死体もあるから分からなくはないが、そんな輩を見ると自分が可愛いだけの甘い餓鬼のように写って仕方ない。

 国定は御堂のように同情と世話を焼くつもりも一切ないが、御堂からつかず離れずの位置に腕を組んで様子を眺めた。

 1人の青年兵が、死体の黒翼に覆いかぶさって声を押し殺して泣いていて、御堂が心配して駆け寄る。
 横たわり、まだ温かな体に軽く手を触れ祈りを捧げた。
 左ポケットから白い物が顔を覗かせる。

「…大切な人か?」短めに話し掛けるが、意味は充分伝わったらしい。
 充血した赤い眼をこちらに向け御堂を捉える。
 本当に捉えていたかは分からない、虚ろな眼差しだ。



「こいつ…俺の弟なんです。いつかはこうなるって分かっちゃいたんだ。でも!初陣で、まだ16歳だったのにッ!!…白翼なんか」

 白翼への憎悪が抑え切れないのだろう。
 物言わぬ弟の手を固く握りしめて、地に転がる白翼の死体を睨みつけている。


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あきゅろす。
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