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アーザの火
7
 聞いた事がある。直接魔力を送り込み意のままに操る洗脳系の魔法…直接攻撃というより間接攻撃に長けた魔法の使い手が御堂だった。

 そんな面倒な、回りくどい力ではこの先も生き残れないだろう。
 此処でくたばろうが何の興味もない国定にとってはこの時まで御堂への認識は足手まといとしか思えなかった。

 やはり攻撃はシンプルな方が良いに決まっている。
 左手を右手に添え、腕を前方に伸ばし国定は魔法を発動させる。



 一疾の風が敵陣営に吹く。

 爆炎で視界がゼロになっていたのに、ほんの僅かの間、目の前が明るくなる。


 良く見ると近隣の建物も崩れかけていて、今にもこっちに倒れてきそうだった。
 何の関係もない、おそらく一般市民の白翼も巻き込まれたのだろう…無惨にも道に横たわっている。

 敵は視界がクリアになった事に驚いた反射で、銃の発射を止めるも、すかさず構えまた撃ち込む。





 けれど、それは叶わなかった。







 白翼の頭部や胸部を目には見えない“何か”が貫いたから。






 鎌鼬のように鋭い風が吹き貫け、敵の心臓や首元を切り裂いた。
 彼らにとっては死ぬ間際、自分達の周囲に風が張り付いた感覚しかないままそれが最期となった。

 目に見えない恐怖というものは、誰しも畏れ威圧させるには充分で、白翼の1人を殺せば敵の士気が若干下がる。
 若干でも大きい。
 戦場ではそんな少しの油断が命取りになるから。

 混乱して、落ち着きがなくなった者もいれば、背を向け逃げ出す者までいる。


 1人また1人と殺していくのに、いつまでも戦意を失わずに抵抗してくる者も中にはいた。

 白翼もそれだけ必死なのだろう。
 以前は自分達が支配者であり王だったのが、逆転し地に堕ちたとなれば抵抗する気持ちも分からなくはない。

 と同時に、いい気味だとも思う。
 各地でテロを起こすぐらいしか方法が無い程に、牙が磨かれた黒翼に対抗出来ない没落した姿は憐れだった。


 国定が白翼に虐げられた事は無い。
 白翼が栄えていた時代など50年前の話であり、国定が生まれた頃から黒翼が権威を示していたのだから。

 しっくりは来ないし、白翼に個人的な恨みはない。
 が、軍に所属したのだから敵は殺さねばならなくて



 敵を…人を殺す覚悟ならとうの昔に決めており、その覚悟を以って国定は軍に身を置く事にしたのだ。



 御堂を視界に捉えると、自分の魔力で繋いだ死体を操作し白翼を襲わせ葬っていた。
 首がなかろうと、腕が吹っ飛ぼうと立ち上がる死人の姿はまるでゾンビだ。

 けれど、いよいよ死人の肉体が銃で蜂の巣のようになり、動かなくなり使えなくなる。
 どう切り抜けるつもりなのか、盾も無しにどう自分の身を守るのか、ふと気になった。

 今にも倒れそうな建物の柱の影に御堂は身を潜めて、鉛玉の嵐を防いでいる。

 これは助けるべきなのか?

 仲間なら迷いなく助けるべきだろう。
 個人的な感情で、気に入らなくても例えウマが合わないのだとしても。

 少なくとも…同族で仲間に変わりはない。
 それだけあれば理由は充分だ。





 一気に地を蹴り、敵の散弾に当たらぬよう注意を払い、御堂が隠れた物陰の近くまで素早く移動し側に近づく。


 国定に気づいたのか、御堂は意外そうに目を細める。

「助けにくるようなキャラだったか?そんなに熱血だったとは知らなかったな」

 どうやら減らず口を言う元気はあるようで、抱いていた疑問を御堂に聞いてみる。


「白翼の死体もあちこちに転がってただろ…何でソレは操らない?」


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あきゅろす。
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