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忠犬を手懐ける






「あ」
「………げ」

お友達発見ーん。とお行儀悪く指差す私と目が合った途端獄寺隼人くんはくるっと華麗に回れ右をした。と思ったら、スタスタスタと来た道を戻り出す。あれ、この先の何処かに用があったわけじゃないのかな

「何処行くの?」
「うるせー黙れ」
「何で方向転換したの?」
「うるせー黙れ」
「あはははははは」
「笑うな黙れ」

スタスタスタスタスタスタ。
スタスタスタスタスタスタ。
何処へ向かうでもなく廊下を真直ぐ行ったり曲がったり階段を下りたり上がったり中庭に出たり忙しない獄寺くんに私はついていく。校内探険をする手間が省けてとても助かるのだけど彼は何処へ行くのやら。「おい」「へい?」

「何で着いて来んだよ!?」
「一人だと色々困るから」

そうそう、誰かに話し掛けられたりとかしても何て言ってるのか判りやしないしね。

「何故か沢田くんは欠席だし」
「十代目はお忙しい御方だ。てめーなんざに構ってられる程暇じゃねーんだよ」
「いつも構ってくるのは沢田くんの方だけどね」
「………………」

言い返したら眉間の皺が三割増しになってしまった。現在進行形で未だ歩行に撤している獄寺くんについて行きながら景色をちらちらと眺めていると「喧嘩だ」進行方向に。「あ?普通だろ気にするだけ無駄だ」なんて普通に素通りしてただの背景にしてしまう獄寺くん。──ほんの一瞬見ていた限りかなり雰囲気の悪い流血沙汰の喧嘩だったような気がしたんだけど。ぞわぞわと通り過ぎ様に感じた違和感のようなものが所謂"殺気"なんだろうか。それとも只の体調不良?是非とも後者であってほしい。

「暇なら食堂一緒に行ってほしいんだけど、な」
「一人で行けんだろ」
「私イタリア語判んないから」
「そーかよ良かったな」
「獄寺くんってツンツンしてるよね」
「……………」
「沢田くんにはデレデレして飼い主と戯れたがるわんこみたいなのに」

そうかぁこれが俗に言うツンデレなのかー、ん、あれ?でもなんかちょっと違う?中途半端に意味を理解してるから駄目だなぁ。「と、いうことで食堂に一緒に行こうね、ついでにイタリア語教えてね」「ちょっと待て何でそうなるんだよ!」「自然現象だから気にするなよーう」「ざっけんなカス女!!」………おお、カス女って言われちゃったよ

「何で俺、が、てめー、の、世話しなきゃいけねーんだよ!」

俺がてめーの、だけ強調して言う辺り本気で嫌がってるらしい。まぁ確かに獄寺くんにそんなことをさせる義理はないんだけど、手頃な場所に頼りがいのある(獄寺くんは頭が良いということは日々の授業で判っているし)何かがあれば今すぐに縋りつきたいところ。少なくとも今の私には支えが必要なのだ。と、いうことなので

「和雲ちゃんのイタリア語講師に推薦!」
「断る!」
「何で何でー!もしかしたら沢田くんの中の獄寺くんに対する株が上がるかもしれないのに!」
「…………!」

勿論はったりだったりする。そんな言葉にも"沢田くん"という単語が入れば獄寺くんには最大の威力を発揮する。どんだけー。獄寺くんの世界はきっと沢田くんを中心に回ってるんだろうな。ブツブツと視線を斜め四十五度歩みを止めて壁に手をついて何かを考える獄寺くん、それなりにおかしい人として私の目には映ります。何か他人の振りをしたい気分。自分で撒いた種だけど。「…おい」と僅かに低いトーンでがしっと私の肩を掴んで何かを呟く獄寺くん。

「…………やる」
「はい?なんて?」
「…教えてやるって言ってンだよ!!」
「…………何を?」
「あぁぁほんっっとにムカつく女だなてめーは……!!!」

これは失礼。

「じゃ、宜しくー」

家と学校どちらにも言葉を教えてくれる先生を得て満足満足。とりあえず早く慣れてしまわないと色々と困っちゃうから、ね。「これも十代目の為……」なんて自己暗示に耽る獄寺くんに礼を言っても反応しないだろうと思ったのでありがとうを言うのは後にしよう。
閑話休題。

「しょうがなく教えるんだからな」
「うん」
「十代目の為であっててめーの為じゃねー」
「はいはい」
「……野球バカが此処に居たら押し付けてるとこだからな!」
「うん、って」

野球バカって誰?

Avvelenamento di
colore primario

(まぁいいや。食堂行こう)
(はぁ!?)




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