[携帯モード] [URL送信]
有難いものではない感触






「ちょいとこの背後霊の如くくっついている御方を引き剥がしてくれませんかね」

麗しき母国語で前の席の見知らぬ人に問うてみた。勿論言葉を理解してくれる筈もなく訝しげに見られやがてまた視線を前へと戻すだけで私の首や背中にかかる負担を拭ってはくれない。「重いんですけど」「んー」なんて私に抱き付いて疲労を激しくしている犯人の沢田くんは和漢せずと言ったところで好き勝手していた。正直に言おう。止めてくれ。
色々と危ない気がしなくもないし何より時々首筋にかかる吐息やら何やらで悪寒がしっぱなしなのだった。偶然にも編入したクラスに沢田くんが在席していて且つ席も沢田くんの隣で沢田くん沢田くん尽くしな感じで迎えた初登校は勿論グッジョブ!ではなく。
いい具合の抱き枕を見付けた沢田くんは授業の内容なんぞ聞く意味も無ぇよみたいな感じで先程から惰眠をむしゃむしゃ(言わないけど)貪っている。不真面目だなと思う反面私も同類だなと考える。イタリア語で進行されているので理解不能なのだからしょうがない。仮に英語が使われていても理解できる自信もないが。欠伸をしながら余りにも暇なので周りを見回してみる。此処一番後ろだから見渡しやすいんだなぁうん、良いね。座る席一つで気分が上り下りする私にとっては嬉しいことです。この張り付く人肌と外国という事実さえなければ。あとマフィアとかいう単語もないと良いな。

「沢田くん」
「……んー」

微睡んでるのか反応の鈍い沢田くん「前の席でさっきからちらちら見られてる気がするんだよー」「ふーん」「…………それだけか」おい、とつっこみを入れたいところだけど背後に居る沢田くんに手刀宜しくつっこみを入れることは不可能で会話がろくに進まないまままたうとうとし出す沢田くん。この前の毒気と黒さを帯びた雰囲気とは裏腹なモノを漂わせる沢田くん。一体どちらが君なんだろうね沢田くん。
…………さっきから沢田くん沢田くんばっかだよ!

「危うく侵されるところだった…」
「………犯す?」
「勝手に脳内変換しないでねー」

でもってがばっと起き上がらないでください。「子供は二人がいいな」「未来設計=妄想=私の特権。と、いうことなので沢田くんは妄想禁止ー」「れっきとした事実を並べ立ててるだけだけどな」
………洒落になんねぇ!
「所であそこの彼は誰だろう」

やっぱり視線を感じてしまう私は完全に目が覚めたらしい沢田くんに聞いてみる。私よりもこのクラスの生徒を知っているだろうからせめて名前ぐらいは判明するだろう。

「獄寺隼人」
「へー」

それ以上も以下もなく本当に名前だけ伝えると沢田くんはまた寝ようとしているのか目を閉じてしまった。心なしか窮屈さが増したような気がするんだけどそこはまぁ、スルーで。数分後授業の終わりを伝えるチャイムが(日本と違う!)鳴りざわざわと教室が騒がしくなる。夢の世界へと誘われたままの沢田くんを起こそうとすると「十代目!」という声が聞こえた。
ぴくり、寝ていた沢田くんがうっすらと目を開ける。不機嫌そうに眉根を寄せ何処かを見据える沢田くんの視線の先。
獄寺隼人という一人の生徒がこちらに来ていた。
寄ってくるその様はまるで、

「………犬が見える」
「…………。」

Avvelenamento di
colore primario

(忠犬?)




あきゅろす。
無料HPエムペ!