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Un'orchidea bianca




帰ってきたら、少しばかり付き合ってもらう用がありますので宜しくお願いします。

珍しく電話で無く文面で届いた弐織さんのメッセージはたったの一言簡潔にそれだけ綴られていた。何事だろうかと考えてはみるものの皆目検討もつかないので考え始めてから数十秒後に思考停止したけど。そんなメールから始まった滞在五日目。私と沢田くんはまた並盛に来ていた。現在位置は矢張り今日も色んな音が飛び交う工事現場である。沢田くんが立ち入り禁止の看板を通り越して行った背中を私は黙って見送る。入る際に着いて来ないのかって聞かれたけどそこは丁重に断っておいた。ただ単純に着いて行くのが面倒臭かっただけ。私の返事を聞いたときに若干顔を顰めた(それが不満を表すものなのか断られた悲しさを表すものかまでは感じ取れなかったけど)沢田くんは「直ぐ戻る」と何時もより足早に歩を進めて行って見送ってから数十秒後、中のプレハブ小屋に入っていった。さて、暇だ。

「ふぁあ…」

欠伸を噛み殺さずに出しながら携帯を取り出してメール画面と睨めっこしてみる。
返信すらしていない自分の従者の本文の内容の意図が全く判らなくて首を捻ってみた。当然ながら何も思いつかない。少しばかり付き合う用とは何なのだろうか。あの男の性格上私事に付き合わせるようなことではないだろう。となるとやっぱりファミリー関係だろうか。というか絶対ソッチだろう。ちょっと憂鬱になってきたぞ、コレ。欠伸じゃなく今度は溜息が出そうだ。そう思いながら工事中の看板から背を向け歩道側を正面にくるりと半回転した後、

「……おお」

人が居た。
真後ろじゃなく斜め後ろ側に。人が来たような気配なんてしなかったから素直に驚いた。黒を基調とした格好で頭には黒い帽子、真っ黒とは言えないけど殆どが黒な背の高い人物は何も言わずに私が先刻までちらちらと見ていた工事の様子をじっと見ていた。対する私はその人に向かって視線を送る。服のカラーとは正反対の白髪が妙な異彩を放っていてアンバランスな感じがするのは何故だろう。髪色の所為か自然と年配の人間かと思った刹那

「―一体何を造ってるんだろうね?」
「……!」

耳に入った声は若者の声で然程歳が離れてはいないことを認識させた。
突然声をかけられてたじろぐ私。「家でも建つのかな?」反対に私の態度は気にせずに一人ごちる相手。ちら、と私の方を見た相手の目と見ず知らずの相手への対応に困惑して瞬きの回数が多くなった私の目がかち合う。にこ、と笑みを浮かべられる。引きつり笑いで返す。

「君、此処の関係者?」
「…あー…違います、けど」

強いて言えば知り合いが関係者ですという言葉を呑み込んで途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「じゃあ中に入って行ったお友達か誰かを待ってるのかな?」


……うわぁ。
何だ、この人。すっごくわざとらしいような気が、する。
単なる推測でされた発言とは思えないような言い分に聞こえて知らず眉間に皺が寄る。「……それが何か」下手に話を逸らさずに肯定すると「お、当たり?今日は勘が冴えてるなぁ」如何でもいい自画自賛とも取れる返事が帰って来た。尚も笑顔のままで。初対面の相手にこんなにも嫌悪感を抱いたのは始めてだ。早く、沢田くんが戻ってくることを祈りながら如何にしてこの後の状況を扱うか私は思考した。閑話休題。

「悪いな、待たせた」
「……待った」

程なくして戻ってきた沢田くんにボソっと不満の声を漏らしながら息を吐く。
先程の男は沢田くんが戻る少し前に立ち去っていた。

「…何か異様に疲れてるような気がするのは気のせいか?」
「…ははは、多分」

力なく笑って返す私の右手には男から手渡された紙。
下水道にでも流してしまおうか。

Avvelenamento di
colore primario

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