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ませていて何処か黒い妹の話




恒例だと言えるほどの回数は積んでないけど。マイシスターのお話。
名付け親は誰だっただろう、多分母親で名は初夏という。歳は私よりも四つ、兄とは八つ年下の13歳で今年中学二年に進級するらしい。肩よりも少し長い茶髪で毛先に緩いパーマがかかっている。軽い天然パーマなんだろうか。性格はどちらかというと父親寄りで感情の起伏は然程激しくもないようで間逆の兄とよく口論していることも少なくは無い。そしてその全てが兄の一方的な「構ってくれ」発言からだ。適当に構ってあしらう私とは違い妹は「嫌だ」ときっぱり言うなんとも素直な子なのだ。素直なのは良いことだよね。表情は同じ年頃の女の子と比べると少しばかり乏しいけれど私にとっては可愛い可愛い妹である。目に入れても痛くない、とは言い切れないけど。

「こないだの夜、お兄さんとキスしてたでしょ」
「……え」

滞在三日目の朝、廊下で鉢合わせた妹と共に洗面台でしゃこしゃこと歯を磨いている途中のこと。無表情に紡ぎ出された妹の言葉に思わず固まる。鏡を通してかち合う目と目。「お、お兄さんって裕紀お兄さんのことかな…?」「あのトリプルコンプレックス野郎のことじゃないよ。沢田さん」ブラシを動かす手を止めてハッキリと吐き出された言葉に「えーと…」返す言葉が見付からないんだけど、どうすればいいのだろうか。

「あれは事故なのだよ我が妹よ」
「へー」

嘘だねとでも言うような視線を鏡を通して感じてしまって思わず目が泳ぐのを止められない。「事故だっていう割には少女漫画のワンシーンの如く綺麗にキ」「あぁぁぁあ初夏ちゃん、初夏ちゃん歯磨き粉要るかな!?お姉さんはもう要らないから要るならあげるよ!」「……もう歯磨き終わったし」はいどうぞと握り締める手に力が入りすぎてぐにゃりと曲がるチューブ(蓋はちゃんと、閉めてた!)を冷めた目で一瞥した妹は口の中を漱ぎ終わったのか、余ったコップの中の水を流しているところ。

「キスぐらいでけったいな……」
「…それ兄ちゃんに言ったら間違いなく泣かれるよ」
「判ってる」

ていうかこの子、「キスぐらいで」って言ったよ。どんだけませてるのだろうか。最近の子は早熟だとよく言われているけど本当にそうらしい。どっちが年上だか判らなくなってきたのは私だけだろうか。そう思いながら口の中を漱ぐタイミングを逃してしまった私は未だしゃこしゃこと歯を磨いている。その間にも妹はもう顔も洗い終わったのか今度は髪を櫛で梳いていた。「いつまで歯磨いてるの?和雲姉」「あ、うん。今漱ぐよ。今すぐ漱ぎますとも」妹につっ込まれてやっとこさ口の中を漱ぐことが出来た姉。もうさっさと顔も洗ってしまおう。ばしゃばしゃと洗いながら背後で妹の動く気配がする。

「どうでもいいけど、さ」

キュッと蛇口を締めて顔を上げたのを見計らってか否か、私がタオルで顔を拭いている途中。「ああいうことするんだったら、きっちり扉閉めて鍵もかけときなよ。兄貴が見たら卒倒してたよ」目撃したのが私で良かったね、と。タオルで顔半分を隠しながら眺めた妹の口元は微妙に吊り上っていて。

「…す、すんません……」

去った妹に対して出た謝罪の言葉。あれ、何で謝ってるんだろうか、私。
というか、少し見ない内に微妙に黒さが増しているのではないだろうか。

「どうした?」

何も知らずに此方へとやってきた沢田くんを直視できず「何でもないよー」タオルで顔を隠しながら、後退りをして退散したのは、言うまでも無い。


Avvelenamento di
colore primario

(忘れた頃に言ってくるのは止めて欲しい)




あきゅろす。
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